prologue

もういやだ。
耳障りな言葉ばかり吐き出される空間。自らの言動、一挙手一投足をからかわれて。
教室ここは私にとって牢獄だ。
自分の中の柔らかな部分を傷つけられると分かっていて何故ここに来ないといけない。
陰で殴られ、詰られ、教師にも見放され、喰われるために飼育される家畜はこういう感じなのだろうか?もっと扱いがいいと思うが。
教室中の敵に私は屠殺され、今の世界は便利だからその様子もネットにでも流され、どこかのサイトであれこれ揶揄され、最後データはゴミ箱に捨てられるのだろう。

今日も登校すると机は落書き、花の挿された花瓶がある。
花代は誰持ちだろう…請求されたら嫌だな。配布物は一人だけ来ず、今日は特に無駄にぶつかられるし足をかけられて、

(あ、転ぶ)

膝を打った。
クスクスと笑い声が聞こえる。下手に反応すると拍車がかかるので黙って起きあがろうと動く。

「どうした?──おい、大丈夫か?」

彼は……なんかよく分からないが気にかけてくれる人。
前に私と話したことあるのかな?顔は…見たことあっただろうか。俯いたままでいることが多くなったから顔が思い出せない。一人考えこんでいると。

「アンタ邪魔ぁ〜」
「…っ」

私の足を踏んで通りすぎる他人の足。
ちょっかいをかけて、しゃべりながら通り過ぎるのは、たしか主犯。
最初に私の家庭環境を揶揄いだしたコイツも顔と名前が思い出せない。
…彼と同じ扱いにするのは嫌だな。
しかしこれ以上あーだこーだ言われるのも嫌なので無言で立ち、彼の横を通り過ぎ自分の席に座る。
それと同時に学科担当の教師が入ってくる。
いつもこのタイミング。影で見てるんだろうな…別に良いけど。あぁ、たしか一度だけ怒鳴った先生いたなぁ…誰だったっけか。渋めの良い声だった気がしたけど。まぁいいや。

一日の授業が終わる。
私が掃除を押しつけられるとクラスの人がそそくさと帰る。なんかすぐ横から手伝うと声が聞こえたが断った。
もう1人での掃除に慣れてしまった。人に合わせるのも、手伝ってもらって会話するのも嫌だ。めんどくさい。関わりたくない。
完璧に掃除し終えると、荷物を全て持ち教室を出る。
教室の窓から外を見ると、校門前でたむろしてる人達がいたからだ。
遠くて誰かは分からないが主犯たちなら横を無事通り過ぎることができるかも分からない。
…知り合いでも面倒くさい。
とにかく関わりたくない。暇つぶしを求めてさまよう。
以前入り浸ってた美術部は顧問の先生が独特の雰囲気をもった人で。
授業以外あまり外に出ないが優しくて、入学して校内で迷子になっていたときひなたぼっこしていたのが先生だった。
話しかけると驚きながらも道を教えてくれて。
それから会うたび気にかけてくれて。絵を見せてもらったり、お茶会をしていたが、以前主犯と仲間のバカ共が部に乗り込んできたことがあった。
それ以降行かないと決めた。あの静かな落ち着く空間が私のせいで壊され、先生にも嫌な思いをさせたから。

「…元気かな」

最近行っていないと言えば。

スチール製の扉を開け学校で一番高い場所、屋上に来た。
少し風が冷たいが、我慢できる。
入学してからすぐ昼ご飯を食べに屋上に来て。貸切だとリラックスして食べてたらいつも利用しているらしい先輩方が来て。
気まずいから謝って弁当を片づけて帰ろうとすると側に座らされたんだったな……。
それから屋上に来ないとクラスまで迎えに来るし、ご飯をご馳走してもらったこともあった。

(……おいしかったなぁ)

あの頃は本当に楽しかった。
そう思いながら以前先輩方とよく座っていた場所に腰を下ろし、フェンスに寄りかかる。


バキンッ。


なぜか後ろに傾く身体。とっさに自分の学生カバンを掴む。ほぼ全教科の教材が中に入っているが体重を支えられる訳もなく、仰向けになりながら落ちる身体。屋上の端に何か見えた気がしたがもうそれも分からない。

「久々に上を向いたなぁ」

冷たい風に揺れる前髪の隙間から見える青空が綺麗だ。
落下する感覚に意識を持っていかれる。いつの間にか私の目の前は真っ暗になった。
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