耳に当たる目に付く癪に障る(6)
天国かと思って。
木漏れ日の中、ずっとあのまま横になっていたかった。
そう言った女は遠くを、我々の知らない場所を見ていた。

「その場で動かずにいると、どこからか耳に障る音が聞こえて…なんだろうと思ってると少し離れた茂みから梵天丸くんが」
「小十郎」
「はっ…刺客と交戦した際の剣劇かと」
「そうか」
「焦っていて、声をかけると怯えたので危険なことに巻きこまれたんだろうと考え、逃げるように言いました」
「共にか?」
「一人でです」
「「……」」
「ふと、梵天丸くんの手に傷があるのが目に入ったのでハンカチ…布で傷を覆い、後ろ姿を見送りました」

状況を思い出し、淡々と答える女。
(梵天丸様の手に巻いてあった布はこいつのか…)

「しかしその後必死に叫んでいる子供の声が聞こえて…気がついたら走ってました」

声がする方向へ体が動いただけなので、目的とか考えてなかったです。

「そうか…」

眉を八の字にして笑い喋り終えた女に、輝宗様はそう答えると部屋に静寂が降りた。

「父上…っ」
「どうした?梵天丸」
「どうされました?ご気分が優れないのですか?」

突如、今まで無言を貫いてきた梵天丸様が声をかけてこられた。
「こいつ…さとみは、自分が婆娑羅者だって知らなくて……忍に会ったのも初めてで。怖いはずなのに、腹を刺されてまでおれを助けてくれて…っ!」
「!?」
「なんとっ!」

その言葉を聞いて思わず視線が腹に向かう。が、当の本人はケロリとしている。
俺は思わず起きてて大丈夫なのか聞いてしまっていた。

「大丈夫だ!さとみの傷は風の婆娑羅がひゅ〜って吹いて、で、傷を覆ったかと思ったらあっという間に治って!その後すぐ風の婆娑羅で忍たちを倒してくれたんだ!」
「「!!」」

梵天丸様が身振り手振りでご説明下さる姿は大変可愛らしいが、その言葉に輝宗様と目と目を合わせた。
傷を癒やす風の婆娑羅など聞いたことも無い。このことが周囲に漏れれば熾烈な競争になることだろう。

「人生初体験ですよ…お腹刺されたのも手から風出したのも傷治したのも」
(扇風機かって)

こんなこと出来るんだ、とぼやいている女を興味津々で見つめる梵天丸様。
あぁ、不審な者になついてしまっていらっしゃる……。
輝宗様が忍に指示を出している間に俺は女に質問をした。

「…忍の数は何人だった?」
「全員かは分かりませんが、ぶっ飛ばしたのは5人ですね、確か」
「どうやって梵天丸様の側にたどり着いた」
「走ってですよ?で、側に行こうと忍の脇を通り抜けようとしたらブスリと…いや〜もう少しで2回目死ぬところでした」

アハハと笑っている女に頭が痛くなる。当たり前だ、忍に民が勝てるわけ…。

「!?」

俺は今何を考えて!?
怪しい奴の心配をしてどうする!
肩に力を入れ気を引き締める。



「さとみ!」

ぼすり。音に気がつき顔を上げると、梵天丸様が女に抱きついていた。

「梵天丸様ぁ!?」
「梵天!?」

何してんだ!!と叫ぶ前に。

「どうしたの?」

驚いた表情の女が梵天丸様に話しかけた。両手は、なぜだか上げている。

「ごめんね、長話で飽きちゃった?それとも怖いの思い出しちゃった?」

手を下ろして女が背中をぽんぽんと叩くと、梵天丸様は首を横に振り、

「お礼……」

と呟いた。

「?」
「ありがとう、俺を見つけてくれて」

女と我々に向いて咲いた笑顔。
それは、久しく見ていなかったものだった。

「梵天丸様/梵天…」
「…」
「…さとみ?」
「……っ、」

ボロッ

「「!!?」」

ボタボタ

「冷たっ!さとみ?何で泣く?」
「おいっ、どうした!?」

幼い頃から女の泣き顔は苦手だ。
どうすればいいか分からず焦る。

「さとみ?」
「怖かっ、だっ!」
「「!」」
「何でこん、なとこにいんのか訳が、分か‥ないっし!子供追いかけまわすバカはいるし…ふっ、ぅ!お腹刺されたし、助けられなかったらど、どぅしようって…!」
「「……」」
「ずっと…ずっと怖かった!」

泣く女は忍には見えず、涙に嘘は無く…震える肩は小さかった。

「ぐずっ‥さとみ……っ」

つられて泣き出してしまう梵天丸様。

「ぼっ…、梵天丸くん…」
「なに…?ひっ、く」
「生きてて、よかった…!!」

しばらく女…さとみと梵天丸様は抱き合って泣いていたが輝宗様も…俺も、口出しはしなかった。

「小十郎、目が潤んでいるぞ」
「失礼ながら…輝宗様も同じかと」
「………そうだな」
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