耳に当たる目に付く癪に障る(5)
「じゃ、出て行きますね」
「「はぁ!?」」
「しょうね……梵天丸様が名前をおっしゃってましたので名前は小十郎様、でよろしいですか?」
「あぁ、片倉小十郎景綱という」
「よし」
顔、雰囲気、そして梵天丸くんを見る目。そしてゲームの彼の面影と声で本物と確信した。だから安心して出ていけるから言ったのだが。
(つーか若こじゅさんがびっくりしてるってレアだな)
「よし、とはなんだ。何故すぐ出て行く」
あれ…なんか声色が厳しさを帯びた気が。
「てめぇまさか間者か!」
「えぇっ!?」
(どうしてそうなる!?)
後ろにいる梵天丸くんが霞んで見える…思わずため息を吐いて下を向いてしまう。
「答えろ!!」
顔を上げると。
(わあ刀に手をかけていらっしゃるよ!?)
…まぁ、言葉が足りなかったんだろう。
説明してさっさと出ていこう。
「なぜはこちらの科白です。私は身分の低い身。貴方様が名乗りお武家の方と分かった以上、この武家屋敷で我が家のように寛げるほど私の神経は太くありません。そして後ろにいる梵天丸くん。彼を様づけで呼んだとなれば、どこかの武家のご子息ということ」
知ってるけどね。「…」
「不安要素がいなくなれば安心できますし、こうなる前に出ていこうとしましたが、梵天丸様は先程独りの際に忍に襲われました。頼りの片倉様もおらず同じ状況になるのが嫌だったのでしょう。不安そうな顔をされていたので"あのお付きの方が戻ってくるまで"と己で決め、梵天丸様とお待ちしておりました」
つーか一人にすんなやホント。私怪しいヤツなんだからさ。
「その目的が達成された今。私がここに残る理由は何一つありません。ご理解いただけましたか?」
目を離した瞬間に首と胴体が泣き別れになりそうな空気に小十郎から目をそらすこともできず、ただ淡々と事実を述べ、そして恐る恐る頭を下げた。
「お疑いになりながらもこんな怪しい輩のために部屋と布団を用意してくださり、本当にありがとうございます。数々のご配慮に対する無礼、お許しください。ですが私は間者でも忍でもないので出ていきたいのですが」
(よし!言い切っ…極殺やめて極殺やめて)
顔をあげると視線だけで殺されても納得できそうなほどのメンチが。
怖すぎて笑いだしそうなのを我慢していると、彼等側の障子が開き、誰か入ってきた。
「では、其方が何者か教えてくれまいか?」
「輝宗様!!」「…(テルムネサマ?テルムネサマって伊達政宗のお父さん…お父さん!?)」
殿様キターーー!!
急いで平伏する里美。
「顔をあげてくれ」
「は、い」
整った顔立ちに梵天丸と同じ髪色。
柔らかそうな雰囲気に、ほんの少し肩の力を抜く。
いつの間にか輝宗様の側で頭を撫でられている梵天丸くんに和みながら姿勢を正す。
「我が息子、梵天丸を救ってくれたそうだな」
「はい」
「礼を言う。本当にありがとう」
「……それは」
「「「??」」」
「彼が跡継ぎだからですか?」
「てめぇ!!」
城主が頭を下げているというのになんということを!と、小十郎さんが吼えているのを右から左に受け流す。
「私は城主じゃなくてただの親にお礼を言われたい。体面だけの言葉と態度なんていらない」
あと、
「さっきから上でゴソゴソうるっさい」
バサラの力を使いながら両手を振り上げ、掌を床にたたきつけると、屋根裏から忍二人が落ちてくる。
「さっきの(残り)か?」
梵天丸くんたちに行かないよう背後に彼等、目の前に忍という位置取りをする。
「私の配下の忍だ」
「……だから?」
「下がらせるから許してくれないか?」
「梵天丸くんを狙っていないなら」
そう言いながら一瞬たりとも油断しない里美。
「下がれ」
忍の気配が遠ざかるのを確認して、里美は風を消した。
「一つ問いたい」
「はい」
座り直す。
「なぜ我々を庇った?目的はなんだ」
「梵天丸くんが悲しむ姿を私が見たくないと思ったからです」
優しい父親と、自分の理解者が傷ついて嬉しいやつなんてどこにもいない。
「自分の心に従っただけです」
(此処だからできた?)
己自身の仄暗い部分からの質問は無視した。
それに、この世界に来て初めて私を見てくれたから。
私のために泣いてくれたから。
失いたくなかった。
「目的は、無い」
「無い?」
「行く当ても無いです」
無言で頷いて、吐き出した。
「夢かと思って」
「…?」
「何故か聞いても?」
「はい。私、ここに来る前身投げしたんです」
「「「!!?」」」
「自分が背もたれにしていた壁(フェンス)が崩れてうっかり」
「うっかり……」
「すごい高い所から落ちて死んだと思ったのに」
なんでここにいるんだろう。
呟きは空間に吸い込まれた。
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