笑い声がやまない。 午後6時。キッチンに置かれたスマートフォンのスピーカーからケラケラケラと、声が途切れたと思ったらまた大笑いが流れてくる。ところどころベッドを叩く音が聞こえてきて杵崎花織(きさきかおり)は不愉快な気持ちだった。 「円香(まどか)、なにがそんなにおかしいの?」 返事が返ってくるまでに20秒は要した。今ごろ円香の家の枕は皺だらけだろう。 ーーおかしいって、おかしくないわけないじゃない。……あーおかしい。 「何回おかしいって言ってるのよ」 昼間、短大の自転車置き場で自転車のドミノ倒しをしてしまった。端で寝ていた猫は騒音に気づいて間一髪回避したが、よほど頭にきたのか花織に駆け寄ってきて腕を引っ掻いてきたのだ。 幸い傷はなかったが、買ったばかりのニットには大きな切れ目ができてテンションはガタ落ち。帰り道ではロングスカートを車輪に絡めてしまいこちらも派手に破れてしまった。 先ほど同じゼミの円香から電話がかかってきたため、愚痴っぽく話してみたらこのざまである。 ーー本当に花織の天然エピソードは外れなしね。この前も旅行先の旅館で間違って男風呂入るし。 「脱衣所まででしょ!」 ーーすごい悲鳴だったよねー。普通逆でしょ。 「ううっ……」 言い返せない。手に力が入り、握ったおたまの柄が折れそうになっている。 花織の天然ぶりは学内でも評判で、花織自身も気にしているところである。声をかけてくれた男の子とデートすることになっても、待ち合わせ先を120km間違えておじゃんにしてしまう。自動車教習所で教習車を2台廃車にしてしまう。こんな自分で将来大丈夫なのかつねづね不安になっていた。 ーーまーいいじゃん。花織はモテるんだから完全無欠な男を捕まえなよ。 「完全無欠な男が私を選んでくれると思う?」 ーーそれもそうね。 「そこ否定してよ」