鍋がぐつぐつと音をたてている。花織はおたまで肉じゃがを少しかき混ぜると、残った灰汁(あく)を掬(すく)ってコンロの火を止めた。 ーーところで花織、さっきから何してるの? 「御飯作ってるの」 ーーえらーい。ひとり暮らしだもんねー。 「そっか、円香は親と同居だっけ」 ーー料理もできるなんて男が放っておかないでしょ? 味醂のいい香り。味醂がうまく使えた時は料理が上達したと思う。 皿を取り出して半量をよそうと、火傷に注意してデスクのランチョンマットへと持っていく。 「はいはい。そろそろ御飯食べるから切るよ?」 器を持ち上げると同時に円香は通話を切った。静かになる下宿先。 その一瞬だった。視界の隅に白い袋を捉えたのは。顆粒の鶏ガラスープの一部を使用し終え、切り口を折り曲げて保存し直すつもりだった。しかしそこに見えた袋はいつもより大きく、ロゴやフォントのカラーも色が違っていた。今思えばどうして気づかなかったのか。 母直伝の肉じゃがの残りは明日のお弁当行き。お腹の空いていた花織は、味見もそこそこに皿の肉じゃがを食べ始めてしまった。 その後のことはよく覚えていない。 ただ、花織が1時間足らずで絶命してしまったことは、翌日の新聞に掲載されて多くの知人に知れ渡ることになる。