僕だけの君

これは、由々しき事態となった。


「「俺だよね?」」


せっかくの誕生日なのに、目の前では火花が散っている。

そもそもこうなったのは、私が自分の誕生日を忘れていたから。というか課題に追われて気付かぬ間にダブルブッキングされていたから。



「俺が先だよ!Souくんは、大人しく身を引いてよ…!」
「俺の方が早かったと思う。まふくんこそ…!」



まあ、手違いだったのだ。

先に声を上げたのは、幼馴染であるまふまふことまふくん。
白くて、華奢で、女の子みたいだけど、芯があってたまにかっこよくて。「2/15、もちろん空いてるよね?」なんて、1週間くらい前に誘われた気がしなくもない…、な。



「ねえ、俺だよね…?──みき、」



さらり、髪の毛に触れようとしたまふくんの手は、別の手に阻まれる。



「いくらまふくんでも、許さない」



後ろから抱きしめられるようにして、まふくんを阻んだのは、Souくん。

まふくんを通じて知り合った人。
最初は別に全然話さなかったけど、会う度にちょっとずつ仲良くなった男の子。少しぶっきらぼうなところもあるけど、優しい人。



「やだやだやだやだSouくん離してよーー!」



ばたばたと駄々をこねるようなまふくんを横目に、Souくんはその手を離さない。



( 私どうすればいいんですか───… )



なんで渦中の人物の私が口を挟まないのかと言えば、いや、さっきは挟んだんだ。ごめんね、本当にごめんねちょっと落ち着こう?なんて、言ったんだもん。



『『みきは黙ってて!』』



って言われちゃったらしょうがないじゃん。

それでもさっきからどうしようか、と必死に考えていれば、ふと私の携帯が目に入ってきた。そしてかかってくる電話。



「あ、だめだよ。…アンタは俺だけを見てて」



電話電話、って彼の腕から抜け出そうとしたら、そんなこと。


ちょ、ちょっと電話なんで…、ってぎこちなく抜け出せば、相手はとっても頼れる人。もしもしって出て、状況を説明すれば「任せて」なんて。



「ふ、二人ともっ、お電話です…!」



そう言ってこちらに引き付けて、スピーカーにすれば、電話の奥から『何してんの』なんてけだるげな声。



「「そ、そらるさん…!?」」


『まさか今日めでたい日のみきに迷惑かけてるんじゃないよね?まあ、そうだよねまふとSouなら大丈夫だよね?』



電話から響くそらるさんの声に、ぱたりと停止する二人を見ながら。そんなそらるさんの言葉に、「…はい」って従順に返事をする二人がちょっと可愛かった。



『…よろしい。じゃあみき。ハッピーバースディ。良い1日を』
「ありがとうございます…!」



さらりと鎮めて、電話を切ったそらるさんにすごいなって思いながら、二人を見れば、落ち着いているような何か企んでいるような顔。



「そらるさんに言われたら、仕方ないけどさ」
「俺らだってそれで身を引くくらい軽い気持ちじゃないんだよ」



まふくんは、私の手を取って。Souくんは、私の髪の毛にキスを落とした。



「「来年は、俺だけにして」」



約束だよ、みき。Happy Birthday。