風船みたいに、遠くに飛んで行ってしまいそうだと思うくらい。彼は自由だった。
フットワークも軽かった。謎に交友関係も広いし、この間は知らない外国人と仲良く話していたのを見かけた。
幼い頃に抱いた印象は今もあまり変わっていない。
変わってしまったのは私だった。
この間のバレンタインデー。チョコが欲しいと嘆いている彼に、自分が食べたいと思って購入していた物をあげたのだ。期間限定で美味しそうで、いっぱい食べたいなと二箱買ってしまったから。
値段が高かったせいかひどく喜んできた彼は、私に抱き着いてきた。幼馴染に対するただのじゃれつきだ。恒例行事だ。でも今回、私はそれを拒否した。
だってだってだって!案外力強いし、笑顔に照れちゃって息はできなくなってしまうしで怖かったのだ。
顔を上げた時、彼はとてもショックを受けた顔をしていて。なんと言っていいか分からず、私は逃げた。
それ以降、友人としての接し方が分からなくなってしまった。
こんなに苦しい思いをするなら、ずっと子供でいたかった。鈍感でいたかった。
『束縛されるのって嫌いなんだよねえ』
昔聞いた言葉がよみがえる。
手放したほうがいいのだろう。彼も、彼へ抱くこの気持ちも。
会おうと思わなければ会わない距離になれる。だって自分達は社会人で、もう同じ学校にも通っていないのだから。
◇
今日は始業から忙しく、定時に上がりたかったのに上司に残業を頼まれてしまった。娘さんの桃の節句だからだと。
私だって回転ずし行ってちらし寿司食べたかったわ。イライラして下唇の皮を剝きながら退社した頃には、時刻は21時を過ぎていた。
時刻を確認し、今日はもう寄り道せずに帰ろうと思っていると、掌の中の機械が着信を告げた。
「もしもし?白石?」
「──みょうじなまえで合ってるか?」
「誰ですか」
「尾形。白石の知り合いだ」
「なまえちゃん〜〜〜〜!!」
「お前の彼氏が迎えに来いとうるさくてかなわん」
落ち着いた男性の声に被せるように、叫び声が聞こえる。楽しそうだ。
忙殺されていて忘れていたが、今日は白石の誕生日だった。でも男友達と飲んでいるのだ。私がいなくても別に大丈夫だろう。
「私、彼女じゃないです」
「ほう?」
「どこで飲んでるか知りませんが、男同士のほうが楽しいでしょうし」
「祝福しないのか?」
「え?」
沈黙が重く感じて、私はスマートフォンを握りしめた。
「来るのか、来ないのか」
「い、行きます」