つかまえていてね(2)


オガタさんに言われ向かった店は、自分も来店したことのある場所だった。
小上がりに見覚えのある坊主頭を見つけて近寄ると、同じテーブルで飲んでいた男性たちに注目される。

「えっと…」
「おい、来たぞ」
「よかったじゃないか」
「?」

白石が顔を上げた。アルコールのせいだろう。茹蛸のように顔が真っ赤だ。

「お水飲んだほうがいいんじゃない?」
「あ、ウン」
「酔うのはいいけど、お友達を伝書鳩のようにしたら迷惑だよ。分かった?」
「うん」
「あと私は白石の彼女じゃないよ。頼る人を間違えてない?」

白石は固まった。強めの口調になっただろうか。でも、同じようなことで友人に迷惑をかけないように、ちゃんと言わなければ。

「め、迷惑だった?」
「うん」

どこからか息を呑む音が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
だって、まっすぐ帰りたかった。今日は寝不足だし仕事で疲れているし。
惰性でお祝いするくらいなら、ちゃんとプレゼントを準備していたかった。だが、彼女がいるなら、それも叶わない。もう気軽に会えない。

「まったくもう。誕生日おめでとう、白石」
「あ、ありがとう」
「んじゃ、さよなら」
「待って待って待って?!」

店内で叫ぶな。しかめ面を隠さず振り向くと、しがみつくように手を掴まれた。

「えっと、祝福はしたよ?ちゃんとお祝いの気持ちは込めたよ?意思疎通できるんだからタクシーは呼べるよね?」
「お願いだから待って……」

困って辺りを見回す。杉元さん、おい目逸らすな。
くつくつと笑うオガタさんは助けてくれなさそうだ。他の人も。
衆人環視に耐えていると、深呼吸した白石が座りなおして私の顔を見上げた。待って、これって何かに似ている気がする。

「来年も、再来年も。ずっとなまえちゃんにお祝いされたいです!」
「あ、うん。いいよ。友達だし」

テーブル席の友人は全員ずっこけた。仲良きことは美しきかな。

「えっとぉ、本当に?ずっとだよ?」
「うん。今日だって本当はプレゼント用意したかったんだけど、残業長引いちゃって。白石こそいいの?彼女でも無いのに」
「彼女なんていないし…なってくれるならなまえちゃんがいい……」
「ぷ、プレゼントは私ってやつ?あはは」

酔っ払いの戯言だろうか。本気にしてはいけない。
だが、顔の赤みを取り戻した白石は、こくりと頷いた。
上目遣いで見上げてくる彼の顔は、捨てられた子犬のようで。この顔に弱いってこと、バレているんだろうか。

「その……お返事は?」

固唾を飲んで見守られている中、私は思いきりの抱擁でそれに答えたのだった。