霧に覆われていようとも、HLにも等しく夜は訪れる。
賑やかしの見舞客たちがいなくなると途端に病室は静かで。
静穏に落ち着きを無くしながら痛みに耐えて二日間。
デートをすっぽかしてしまって申し訳ないと謝罪文をメッセージサービスで送ったが返事が貰えず、なまえは落ち込んでいた。
尋問も拷問も数分なら我慢する覚悟があったが、ダニエルと別れることに対しては何の防御力も対処もしていなかったことが裏目に出ていた。
すわ破局か、と目に涙の幕が張る。上を向いて耐えていると、彼女の耳が物音を拾った。
物音は着実に病室へ向かってきている。なまえはナースコールの呼び出しボタンに手を伸ばした。
「起きていたのか」
「ダ、ダニエルさん」
「傷が痛むのか?」
「何でここに」
その言葉に彼は眉をひそめた。
何か悪いことを言っただろうか?びくびくしていると彼はそのまま距離を詰めてきた。
「質問に答えろ」
「あ、明日退院なので大丈夫です!」
「叫ぶな。傷に響く」
(あれ?)
「もしかして、お見舞いに来てくれました?」
「……ハア」
「ため息でかっ」
「どんだけ薄情に思われてんだ俺は」
頭を撫でられて顔が赤くなる。
(本当に?嘘じゃなくて?)
嬉しくて、緊張がほどけてしまった。
またため息を吐かれるが、彼女の身体は温もりに包まれた。
人恋しかったのだろうか?愛する人からのハグに安心してあくびするなまえはそのまま眠ってしまいそうになる。
「まだ起きてろ」
「え?」
「ハッピーバースデー」
何のために来たと思ってんだと言われ、唇に温もりが乗せられて、なまえは目を見開いた。
あまり煙草の匂いがしないことを疑問に思うが、些細なことはすぐに忘却する。
(し、舌が!)
湿った感触と共にコロン、と丸い物体が口内に入り込んでくる。
目を白黒させ、やっと物体の正体を知った頃には、ダニエルはなまえの顔を笑いながら見下ろしていた。
「ショートケーキは無理だったが、これならいいだろう?」
「は、はい……!」
甘い誘導尋問の言葉に、今度がなまえが笑う番だった。