先に休憩に行ってしまったのだろう。医務室に人はいなかった。
「すみません…」
「気にすんな」
スモーカー大佐は咥えていた葉巻を消すと、汚れたシーツとそれ以外を選別し、私の手首の治療までしてくださった。
ゴツゴツと鍛えられた手が案外器用に動くのを見ているうちに、何だか安心して瞼を閉じる。
「眠たいのか」
「はい…すみません」
本部にしか無い薬や治療方法のカルテ。
資料の閲覧と訓練に自由時間も割いているため、必然的に睡眠時間が削られる。
学ぶことがたくさんあり、時間がいくつあっても足りない。
(でも…あなたについていきたい。そう思うのは我儘だろうか)
うとうととそんなことを思っていると。耳を劈くような爆音とともに、医務室が破壊された。
大きな壁やガラスの破片がスローモーションで向かってくると認識した途端。
重圧と共に温かい、人肌の体温が自身を包んだ。
「おい。おい!」
「…う、ぅ」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
「ハァ…どうしたもんか」
「そう、ですね」
彼のたくましい胸板と床にサンドイッチされた私は、苦し紛れにそう答えた。
距離が近い。
(窒息しそうなんですけど!ホントどうしましょうか!!)
緊張と、鍛え上げられた筋肉の圧迫される息苦しさから逃れるため、彼の胸板から顔を逸らそうと試みる。
ずりずりと頬を動かしてみると、スモーカー大佐も気づいたのか視線を感じた。
「んぷっ…」
「…」
「んぅっ、ふっ───」
「オイ」
「─ぷはぁ……はぁっ…!スモーカー大佐。助けていただいてありがとうございました」
「……あぁ」
隙間が空いたので顔を上げ礼を言うと、彼は何だか気難しそうな顔をしていた。
「スモーカー、さん?」
「…」
無言で見つめてくる彼の背から、モクモクと白い煙が広がって──。
「なまえ。好きだ」
「!?」
「嫌なら拒め」
少し乾燥した唇が、私のものと重なった。
固まっているともう一度。
驚いて口を開けば厚い舌がぬるりと侵入してくる。
目をぎゅっと瞑り、白いジャケットに縋っていると、
「──無防備過ぎだ」
「ぁふっ…あ、あっ!」
首筋に口づけを落とされ、今まで出したことのない甲高い声が出てしまった。
バッと手で口を覆う。
「やっ!?ごっ、ごめんなさいっ!」
「…」
「スモーカーさんに触られると、何かへんになるんで。もう…」
「…」
「す、スモーカーさん?」
「…」
「あの?ちょっ、ァアアアアアアアアア!?」
こういう時。都合よく誰も部屋の様子を見に来ず。
私は語尾にハートを付けながら彼に思いを告げるまで。首筋に口づけを落とされ、責められ続けたのだった。