天地無用に感謝



拝啓。いるのかいないのか分からない神様。
夢の中だからといって、やって良い事と悪いことがあると思います。

(せっかく推しの誕生日祝いしようとしてたのに!)

うたた寝してしまい、遥か高い空中から自由落下する羽目になった波澄は、心の中で抗議した。


────閑話休題。





平和な島に銃声が響く。

「え〜ん!」
「やめろ!その子を離すんだ!」
「うるせェ!」

ドンッドンッドンッ!

声を荒げる海賊は。どこに隠し持っていたのか。小銃をあちこちに向けて威嚇する。
男は、母と楽しく散歩していた幼い少女を人質に取り逃亡を企てていた。善良な一般市民を人質に取られ、手出しができない海兵達。

「船だ!船を用意しろっ!」
「その前に人質を解放しなさい!」
「うるせぇ!」

数メートルずつ港へ移動する海賊を逃がすまいと、じりじりと距離を詰めていた若い海兵が銃口を向けられた。

ドンッ!

「ぐわぁあ!」
「海兵しゃんっ」
「動くな!全員じっとしてろぉ!!」

撃たれた肩を鮮血が染める。
人質の少女は泣きながら海兵を心配するが、拘束する海賊の腕から逃れられない。応援が来るまで持ちこたえようと包囲していた海兵達が、悔しそうに動きを止める。

「──…ぁ」
「おいっ!今なんつった!そこの海兵!」
「なんのことだ!貴様まだ何か要求する気か!」
「女の子虐めてんじゃあ、ねぇえええっ!!」
「えぇ〜〜〜〜っ!?」

海兵に悪態を吐かれたと思い聞き返した海賊は、予想外の方から返答が来て驚いた。
全員がその声の方を見る。
自分より遥か上の存在に気を取られ、緩んだ拘束。女の子は勇気を振り絞り、海賊の腕から脱出した。

「なっ!?待てガ」
「──"神縫い"」

少女を捕まえようと伸ばした両手の間。凄まじい衝撃と共に、白銀に光る両刃の剣が深く突き刺さる。
己の顔が反射して映るほど磨き上げられたそれに、海賊は地面に倒れたまま動くことができなくなった。

「キ、きゅ…」
「ん?あ、気絶した」
「確保ーーー!!」

押し寄せる海兵達に驚きつつ、気絶した海賊から離れる。
そして、男が今度こそ確保されたことで、見守っていた島の住人が歓声を上げた。

「おい!そこの女!」
「わっ、はい!」

それをかき消すボリュームの大声を出され、波澄は思わずシャキッと返事し振り返る。
振り返った先にいたのは、折れた葉巻をしまいながら、鋭い眼光で睨む銀髪の男だった。

「ス、スモーカー曹長!」
「曹長さん?」

(曹長?あぁ!まだ若いな、そう言われると!)

自分の知る前の姿を珍しく見ていると、

「バカ野郎ッ!」
「!?」
「民間人が飛び出してくんじゃねぇ!」

いきなり怒鳴られた。
あまりの勢いに何も言えないでいると、怒鳴り声に驚いたのか、人質にされていた女の子が泣き出した。

「どうしたのかな〜?大丈夫、もう怖いことはおきないよ〜」
「お、おねえちゃん、が」
「うん。あ、私が怖かったのか。ごめんね?」
「ちがうっ!おねえちゃん、わたしのこと助けてくれたのに怒られてるから…」

その言葉に、野次馬の視線がスモーカーに集まる。

「そう…心配してくれてありがとう」
「う、うん」
「あの海兵さんは、──あの人も、心配してくれてるだけだから大丈夫だよ」
「ホントに?」
「そうそう。ね?スモーカーさん?」
「…チッ」
「ねぇ?(適当でもいいから返事!)」
「あぁ」

目で訴えたおかげか。返事した彼の言葉に安心した少女は、笑みを浮かべ母親の元に駆けていった。
野次馬も興味を失ったらしく、人が離れていく。
誰もいなくなった後、


「お仕事の邪魔をして、すみませんでした」
「いや…」
「怪我は大丈夫ですか?」

スモーカーは、先程撃たれた肩に手を当てた。

「血は止まってる」
「おい」
「そっちが本性か?」
「はぁ…」

溜息をつき、波澄は足払いを掛ける。
あっという間に地面に座らされたスモーカーは睨んできたが、無視して持ち物から医療用具を取り出す。

「触るな」
「はいはい。心配かけられたくないならご自分でどうぞ!」
「……悪い」
「いいえ。命に別条が無くて何よりです」

波澄が心から言うと、スモーカーの眉間の皴が少しだけ緩む。
手当てを見守る彼女が夢から覚めるまで。そこには平和な時間が流れていた。
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