腐食と木春菊
客船にいた頃を思い出していたせいで、最後の食料を落としてしまった。とうとう食べ物が無くなり、遭難70日目。ジジイを殺して食糧を奪おうとしたのに、アイツは何も持っていなかった。最初から。食いモンひとかけらすら、何も。
「優しくされる覚えはない!何でだよ!」
「お前が、おれと同じ夢を持っていたからだ」
「オールブルー……」
お互い息も絶え絶えで死んじまいそうだ。
なのにオールブルーの話を、夢の話をしている。
(ここから生きて帰れたら、ジジイに恩返しするんだ…)
──絵空事を描いていたせいか。
倒れて、転がるように体勢を変えた先にその人が立っていた時、幻かと思ったんだ。
「だ、れ…?」
島を散策中、ふと気配を感じその方向に顔を向けると。頬の肉が削げ落ち、今にも命の灯が消えてもおかしくない状態の──”見覚えのある”少年がいた。急いで距離を詰め、その少年を抱き起こす。
「おねぇさん…?…ハァ…だれ?」
身体の震えが止まらない。
この小さい存在が今にも死んでしまいそうで怖かった。碌に返事もできないでいると、
「…天からの使いか。何のようだ」
「違います」
「ならさっさと帰れ。ここは満員だ」
元々倒れていた男から強い眼差しを感じる。これが殺気なのだろう。
衰弱していたとしても賞金首の海賊。重くのしかかるようなプレッシャーに私は萎縮した。
「わ、分かりました。用事を済ませたら帰ります」
(本当はもう少ししたら助けが来ると教えたい)
でも、信じてもらえるか分からない。
あまり警戒させて体力を消費させてはいけない。
サンジを
(いきなり固形物食べさせたらお腹壊しそう…)
乏しい想像力を働かせ、飲料水と温めるだけで食べられる米を使い、おかゆを作ることに決めた。
一人用の小さいサイズだが、折り畳み式のガスバーナーコンロは十分役目を果たしてくれそうだ。
とろとろに煮えるのを待つ間にできることを探し、そっとゼフの手を取る。
「おい…!?」
消毒用アルコール液とおしぼりで丁寧に手の汚れを落としていく。
視線を下に向けると欠損した右足の抉れた肉が目に入り、眉を顰める。
傷口は彼が何とかしたのか蛆は湧いていなかった。しかし、痛々しい患部に鳥肌が立つ。このまま放置するなんてこともできなくて。消毒の際に呻き声を上げ、凄まじい力で腕を掴んでくる彼に謝りながら。泣きながら。私は新しい包帯を巻いたのだった。
足りなくなったお湯をもう一つのコンロで沸かし、彼の身体を服から露出した部分だけ拭いていく。
その頃になると、幼いサンジがいる手前か暴れる体力も無いのか。彼は抵抗しなかった。
サンジにも同じくし、会った時よりも顔色が良くなったのを確認すると。私はプラスチックスプーンの包装を破り二人に渡した。
「一人で食べるのも寂しくて…一緒に食べてくれませんか?」
(良い誘い文句が思いつかなかった!あ〜恥ずかしっ!)
震える手で、おかゆの一口目を掬い、飲み込む。
自分に続いて少しずつ、徐々に掻き込み、一心に咀嚼する様子を飲み物を渡しながら見守る。
時々噎せそうになるほど食事に夢中になっている彼等に私はほっとした。
先に食べ終えると、持っていた水と食料の中から消火に良さそうな物を選んで、二人分をまとめて置く。
(あと少し、これで頑張ってほしい…)
幼いサンジとゼフが最後の一掬いを口を運ぶ頃には、波澄はまた身体が透け、夢から覚めていた。