File:1 取調室での会話(2)



『"トイレ行く?"』
「違うわよ!」

力強いNoだった。
仄華はもう一度首を傾げた。彼女の様子にメリッサは口を開く。

「えぇと。よかったら私と、友達になってくれないかなぁ〜って。他の人と日本の話できたの久々で、ツバキともっと話したいの。仲良くなりたいの」

日本語に翻訳されたその言葉に仄華はペンを持ったまま固まった。
嬉しい申し出だった。しかし、同時に嫌なことを思い出した。
昔、友人の大半が。仄華の父親のせいで離れていったことを。

彼女の父親は、子供のまま大人になってしまったような男だった。
酒とギャンブルに金をつぎ込み、無くなったら金を親に工面してもらい、同じことを繰り返す。
家事も看病も部屋の片付けもしない。自分の好きなことしかしないのだ。

(私はそんな粗暴で思いやりの無い男が大嫌いだった)

気にくわないことがあると誰であろうと食って掛かる。
その乱暴な振る舞いは周囲の子供達にすら危害を加える可能性があったため、関わり合いを持たないようにと友人だったクラスメイトに仄華は突き放された。

(今だって私は周りの人に迷惑をかけてる。これ以上迷惑をかけるには…それに)

「私と友達になるの、嫌?」
『"なり方。忘れた"』

小学校を卒業しても、近所の中学校に入学するしか選択肢が無かったため、彼女は三年間同じ目にあった。
祖母の協力があり一人暮らしになり、実家からも離れた場所に高校は入学できたために会話する同級生はできたが、怖くて一度も自宅に招けなかった。深い関係の友人を作ることが出来なかった。

(でも、なれるのなら)

『"友達、なりたい"』

どうしたらなれる?仄華は問いかけた。
俯く仄華の手をメリッサが握る。

「なら、もう私達友達よ!」
え?
「日本では、同じ釜の飯を食べたら親しい間柄の仲間なんでしょ?なら、ドーナツでもいいじゃない!もうこれで警部補含めチームの面々とも友達!ね?」

アバウトかつ大胆な解釈だ。

(ドーナツの材料は小麦粉で、米と同様の穀物だからいいと思ったかな?)

フレンド!フレンドシップ!と握ったままの手を上下に振るメリッサ。
大雑把すぎる。でも、その心遣いが何よりも嬉しかった。

『"嬉しい。友達できた"』
「Yeahーーー!!」

メリッサは勢いよく立ち上がり叫んだ。そして、喜びを伝えようとドーナツを共に食べた他の警官達にメールを一斉送信。
数分後。第6取調室に警官がうじゃうじゃ屯していると情報が寄せられ、警部補が注意しに来る一幕が。

仕事に戻る面々は、皆嬉しそうに笑っていたという。


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