File:1 取調室での会話



(もっと真面目に英語勉強しとけばよかった…)


警官の私物の中から貸し出された小説は、単語しか読めない。
初めのページの時点で何が書かれているのか理解できなかった仄華は、本の表紙や挿絵をメモ紙に模写をすることで時間を潰した。
時折話しかけてくる巡回の警官にそのメモ紙をあげたり、世間話をして気分転換をする。
部屋の中に監視カメラもあるが、彼女は犯罪者ではないので、驚かせたりしなければ暴れたりもせず。
事情を知っている警官達は、暇を見つけては入り替わり立ち替わり取調室に来た。

「こんなに落ち着いているのは久々かな〜」
『"なんで?"』
「う〜ん。毎日大なり小なり事件はあるし、事後処理もあるんだけど。今日はまだ大きな事件起こってないからデスク仕事が進む進む」
『"いつも大変なんですね。お疲れ様です"』
「ありがとう」

通訳の女性警官、メリッサは仄華からの返事に微笑む。
HLPDMPは、HLになる前の紐育だった頃から警官だった面子もおり、彼女もその中の一人だ。
赴任して2年後に大崩落に遭い、予定していた日本への長期休暇もパァ。
異邦人の訪問は、彼女にとっては嬉しいサプライズだった。
仄華の境遇を考えると軽率なことは言えないが、彼女は仄華と″会話″するのが楽しかった。

「ツバキは料理得意?」
『"あまり自信ない。食文化が違うし、警部補さんの好みが分からないから"』
「なるほど。日本食はヘルシーってよく言われてるからねぇ。好みはとりあえず作ってみて反応を見るしかないわ。あ、日本食売ってるスーパーマーケットはこの住所ね。人間しか入れない場所なの。一人での外出は先になるだろうけど気をつけて」
『"へ〜!ありがとうございます!あの、警察の皆さんは朝早いですか?"』
「時と場合によるけど、一応公務員だから定められた時間はあるわ。事件があれば昼夜問わず出動しなきゃいけないけれど」

仄華はメリッサから基本の出勤・退勤時間や、とある一日のスケジュールを例に日頃の仕事について説明を受けた。
彼女からの説明を自分が見て分かるようメモにまとめる。
HLでの注意点、異界の食べ物やそれを用いた簡単な料理のレシピもいくつか教えてもらった。

『"ありがとうございます"』
「どういたしまして。これで大丈夫かな?」
『"不安はあるけれど、多分きっと大丈夫です。皆さんにご迷惑をかけてとても申し訳ありませんが、書類などが出来るまでお世話になります"』
「こちらこそよろしく。あ、そうだ。これ私のメアドと電話番号!何かあったら相談に乗るから連絡して?」
『"はい"』

かなりの厚さになったメモを大事にしまっていると頭を撫でられ、仄華は顔を上げた。
メリッサは仄華の顔を見つめ、何か言いたげにしている。
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