交際期間、15分。
『ーーーーー、』
3メートル程先を歩く忠義が何か言ったのが聞こえた。けれど、何を言ったかはわからない。だって離れているし、前を向いたまま言ったから。
忠義がもう一度何か言って振り返った。と同時に驚いたような表情を浮かべ私を見て立ち止まった。そのままくるりと向きを変えて私の方に歩いて来て首を傾げる。心底不思議そうに。
『...なんでそんな離れてるん?』
「..........べつに」
きょとんと私を見ている忠義から目を逸らすと、忠義が私の右手を取り握った。はっとして見上げれば満足そうに目を細めて笑い、手を引かれ歩き出す。
手が硬直したように動かせなくなった。手を繋いでいる、なんてとても言えない。ただ、手を握られているに過ぎない。
だってどうしたらいいかわからない。何が普通なのか、全くわからない。
交際期間、15分。ついさっき忠義に付き合ってみいひん?と言われた。
ずっと好きだった。けれど、忠義はモテるし突然過ぎて騙されているんじゃないかと思ったし、何より恥ずかしくて頷くことしかできなかった。
突然忠義が『...んふふ、』と口元を押さえて笑ったからちらりと目をやると、今度は私から顔を背け含み笑いしている。
『...恥ずかしいんや?』
「...ちがう」
『えー、ちゃうのぉ?』
私の顔を覗き込んだ忠義から、今度は私が顔を背ける。顔が赤いなんてわかってる。けどこれは夕陽のせい。絶対夕陽のせい。ってことにしておくの。
『なーんや。可愛いなぁ思たのに』
...どういうつもりでそんなことを言うんだろう。私をますますドキドキさせようとしているなら、本当に悔しい。
そんな言葉、貰ったことない。可愛いなんて、忠義に言われたのは初めてだ。
二人の手へと視線を落とすと、なんだかよくわからない変な気分だ。忠義と付き合うことになったなんて、信じられない。
繋がれた手から視線を上げて忠義を盗み見ると、口角を上げたまま前を向いている。
『...あんま見んといて、...恥ずかしいやん』
あはは、と笑った忠義が繋いだ手を顔の前まで上げる。こうしてじっくり見てみると、更に恥ずかしくなってきて目を逸らした。
どこのカップルもしている手が触れるだけのこの行為が、今はたまらなく恥ずかしい。
『...変な感じ』
「...なにが、」
『もう、彼女やもんな』
改めてそんなことを言われると、どんな顔をしていいかわからない。照れ臭いだけなのに、素っ気ない態度になってしまっている気がして焦る。
『明日から#name1#はぁ、大倉の彼女、って言われるんやで』
また覗き込むように私を見て忠義が笑った。一瞬目が合うと、今まで見たことのないような優しい顔をしていたから、胸がぎゅっと苦しくなって愛しくてたまらない。
『それって嬉しない?俺のもん、みたいやんか』
嬉しいよ。嬉しいに決まってる。
けど、恥ずかしいの。今まで憎まれ口ばかりだったから、急にこんなことになって恥ずかしくて、どうしていいかわからないの。
『...#name1#?』
何も言葉を返せなかった分、呼ばれてすぐに忠義を見上げた。
告白の時から余裕たっぷりに見えた忠義が、今までとは違う何だか微妙な笑顔で私を見ていた。
...わかってる。きっと私が曖昧に返事をしたせいだ。告白にも頷いただけだったし、それをきっと気にしている。
『んは、呼んだだけー』
「.......忠義、」
『んー?』
「..............、」
『...あは、なにー』
「......呼んだだけ、」
あと一歩のところで「好き」を飲み込んでしまった。もう少しだったのに。今日のうちに言わなきゃいけないのに。
と思っていたら、忠義の笑顔が元に戻った。今の一言で満足したみたいに、何だか幸せそうな笑顔に戻って私に笑いかける。
するりと手が離れて忠義を見るともうすぐそこは忠義の胸で、あっという間にその胸に顔を押し付けられるように背中に腕が回った。
こんな感覚、知らなかった。
想像していたよりも男らしい腕に包み込まれて、どくどくと大きく心臓が脈打つ。くっついた忠義の胸からも早い鼓動を感じてぎゅっと固く目を閉じた。私の鼓動も、忠義に届いているはずだから。
「...忠義、」
『...うん』
「.............、」
『...んふ、さっきからなんなん』
忠義の片手が私の頭をわしゃわしゃと撫でる。ひとつひとつが初めてで、そのひとつひとつが嬉しくてたまらない。
「.........好き、」
ぴたりと止まった忠義の手がまた背中に戻ると、溜息と一緒に忠義が言った。
『.........やばい、むっちゃ幸せ』
きつく力を込めて抱き締められて息が苦しい。けれど、そのままでいい。それだけ幸せなのだと、忠義の想いが全て伝わってくるから。
『...なぁ』
「...ん」
『好きやで』
忠義の背中に腕を回すことなんて当分出来そうにないけれど、いつかこの抑えきれない想いを腕に込めて、力一杯忠義を抱き締める。
End.
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