euphoria


交際期間、2時間。


『...俺が言うわ』
「...うん」

屋上の扉の前でヨコが言った。
ゆっくりと扉を開けると、屋上の端のいつもの場所に座り込むすばると、その横に立つ信ちゃん。

『おー、もう終わったん?』
『お前らサボりすぎちゃう?全然戻って来ぇへんやん』

彼らの前に立ってヨコが話し出したけれど、落ち着かなくてフェンスに手を掛け下を見下ろす。
ドキドキしてきた。二人はどんな反応をするだろう。

交際期間、2時間。
昼休みに「好き」と告げたら『俺もや』と返って来た。
すばるたちはずっと教室には戻って来ていないからまだ知らない。今から侯くんが報告しようとしている。

『そんな端っこ立ったらパンツ見えんで』
「...見えないよ」
『風でヒラヒラ〜なってるやん』

しゃがみ込んだままのすばるはスカートの中を覗こうとしているのか、顔を傾けて私を見ている。そんなすばるをパシリと叩く信ちゃん。バッグでスカートを押さえる私。
どれもいつものことだし、本当に見ようとしているわけではないと思うから気にしないけれど。

『ほら、もうちょい』
「見ないでよ、」
『見して』
「いや。」
『今日パンツ何色?』
「白」
『...おい、!』

いきなりヨコが大きな声を出すからみんな一斉にヨコを見た。けれど、ヨコが見ているのはすばるではなく私で、顔を赤くして眉間に皺を寄せている。

『普通言わへんやろ!』
「......嘘だから、よくない、?」

驚いた。いつものことなのに。いつもと同じようなやり取りなのに。
けど、何だか妙に恥ずかしくなってきて俯く。

『え、嘘なん?ほんまは何色なん?』

茶々を入れるすばるを今度は強めに叩いた信ちゃんが、未だ顔を赤らめて不貞腐れるヨコの肩を叩いた。

『なんやねん。いつものことやんか』
『...彼女やねん!...さっきから!彼女になったんですー!』

目を丸くして言葉を失い、私たちを見つめたままの二人の視線が痛い。
すぐにヨコの手が私の腕を掴んで引いた。
慌てたように『おめでとう!』と言った信ちゃんに、ヨコが進行方向を向いたまま手を挙げ屋上を後にした。

...手を繋いでいるわけではないけれど、こんな風に触れられるのは初めてでドキドキする。こんなに強引な行動を取るなんて普段のヨコからは考えられない。

『...普通言わへんやろ。なんで言うねん。どういうつもりで言うとんねん、』

ヨコが前を向いたまま、さっきよりも低く呟くように言った。相変わらず私の顔は見ようともせず不機嫌さを滲ませている。

「......だからっ、...嘘だってば、」

くるりとこっちを向いたヨコは鋭い視線で私を睨み、また顔を前に戻すと近くの視聴覚室へと足早に入り肩を押されて閉めたドアに私を押し付けた。ヨコのバッグがドサリと下に落ちる。
...こんなヨコ、見たことない。

『...俺の彼女やろ?』

至近距離で見つめられて心臓が煩い。更に顔が近付いて私の肩を掴むヨコの手に力が込められ、返事を急かされているみたいだ。
応えるように小さく頷けば、ヨコの顔が傾けられたから思わずぎゅうっと目を閉じる。

『...ほんならああいうの、やめろや』

小さく掠れるように呟いてすぐに唇が重なった。肩を掴んでいた右手がやんわりと離れ首筋に移動すると、引き寄せられるようにまた角度を変えてキスをした。

『.......帰んで、』
「...うん、」

さっと私から離れたヨコの顔が赤い。負けないくらい私も赤いと思うけれど。
落ち着きなく顔を手で触れているヨコに続いて視聴覚室を出ると、外に出るまで会話もないままヨコの背中を眺めていた。

『...いきなり、...ごめん』
「......ううん、」

外に出たらヨコが前を向いたまま言った。キスのことだろうと思って返事をしたけれど、改めて言われるとなんだか恥ずかしい。
校門を出たところでちらちらと辺りを見回したヨコが、私の顔も見ずに手を差し出した。ドキドキしながら手を伸ばすと焦れったそうにぱっと手を掴んで引かれ隣に並ばされた。

『...ずっと、すばるが好きなんか思てたから、』

驚いてヨコに目を向ければ俯いていたヨコが私の視線に気付いて顔を背けた。

「...違うよ、...好きなのは、ヨコ...」

言い掛けてはっとして目を逸らした。最初よりもナチュラルに2度目の告白をしてしまったことに動揺してちらりとヨコを見れば、耳まで真っ赤に染めたヨコが強ばった顔のまま言った。

『...もう知ってるわ』

またさっきみたいにキョロキョロと周りを見回して足を止めたヨコに、突然ぶつかるように唇を押しつけられ、不意打ちのキスに心臓が大きく脈打つ。
周りの目を気にして今度は二人で辺りを見回し、俯いたまま手を繋いだ。

『......俺も、...好きやで、』
「...知ってる、」

一つ一つの言葉や行動を全て忘れたくないくらい幸せ。
ぎこちない会話すら愛おしくて、緊張して変に力のこもった手も、いつまでも赤みの引かないその横顔も、全て甘い痛みと共に胸に焼き付ける。

End.

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