TWINS!!~hush-hush~
「................。」
『................、』
「................。」
『......なぁ、...ごめんー』
早足で歩く私の横に並び歩幅を合わせて、章大が私を覗き込んだ。
『......、...』
息を吸い込んだまま、章大が言葉を飲み込んだ。
涙はまだ辛うじて流れていない。けどきっと、目が赤くなっているから戸惑ったんだと思う。
いつもは私が泣きそうになっても散々からかってるくせに。こんな時だけそんな風に眉を下げて狼狽えるのは、狡い。
『...#name1#、』
章大の手が私の手を取ろうと伸ばされたから思わず振り払った。ますます戸惑っているであろう章大の顔は見ないけれど、今の振る舞いに少しだけ罪悪感。でも、それを上回る嫉妬。
『...ごめんって、』
「................、」
『なぁ、#name1#、』
「......むかつく、」
『......でもな、アレはあの子が急にな、』
「......きらい、」
『.................、』
わかってるよ。平気。大丈夫。
...なんて、言ってあげられない。
心が狭い人間かもしれない。
けれど、私が章大と付き合ってるなんて誰にも言えないのだから、これからどれだけこういうことを経験するのか想像したら、どうしても簡単に気持ちを切り替えることなんて出来ない。
帰りに教室に章大を迎えに行ったら、男女合わせて何人かが章大の周りを囲んでいた。
その中で雑誌に視線を落とす章大と、章大に冗談みたいに『キスしちゃおっかなぁ』と笑いながら顔を近づける女の子。目の前の女の子を見て章大が『もー、見えへんやん』と笑ったその時、二人の唇がくっついた。
『アホ!何してんねん!』と言った章大、笑っているけど頬を染めている女の子、二人を冷やかす周りの友達。
頭は真っ白なのに、その光景を見ている目の奥は焼けるように熱い。
章大がそわそわと教室の前のドアに目をやってから、私が居る後ろのドアに視線を動かした。一瞬目を閉じて顔を顰めた章大が『帰るわ』と言ったのを聞いて先に足を動かした。
許せない。章大にも隙があったんだから。だって、あんなに顔を近付けられても何も言わないなんて。嫌がる素振りくらい見せてよ。
しかも、きっと私が見ていなかったら隠していたはず。
『...ほんまにされるとか、思ってなくて、』
「.........もういい」
『.........何がええねん、』
自分で言ってますます胸が苦しくなった。
本当に、何がいいんだろう。私はどうしたいんだろう。
別れたいわけではない。謝ってほしいわけでもない。自分でもわからない。
『...待って、#name1#、』
今度は掴まれてしまった手を振り払おうと動かしたけれど、しっかりと掴んだまま離れてくれなくて、苦しくてどうしようもなくて顔を背けた。
呟くように私を呼ぶ声と共に抱き締められた。章大のその切ない声のせいで耐えていた涙が零れ落ちた。
なんで章大がそんな声出すの。狡い。
『...ごめん、』
「...きらい、」
『うん、ごめん、』
「...許さない、」
『...ん、...ごめん、』
「...章大なんて、どっか行っちゃえ、」
『...ごめん、...けど、それは無理』
「..............、」
『...#name1#と、一緒がええもん』
「......嘘、行かないで、」
『行かへんよ』
「...今の無し、......ごめん、ずっと居て、」
『...わかってるよ』
もういいはずない。苦しくても、悲しくても、一度知ってしまった章大の腕や胸の温もりから抜け出すことは出来ない。抱き締めてもらえないなんて耐えられない。キスをしてもらえない方が余程辛い。
家の近所でこんなところを見られたら、と思うのに動けない。
抱き締めて欲しい。そうするしか、心の傷を埋める方法はない。
章大が溜息みたいな切ない吐息を吐き出した。それが首筋に掛かってひどく安心する。
顔を上げた章大の顔が傾けられて近付いたからさすがに肩を押して止めた。
『...嫌なん、?』
章大の傷付いたような表情に胸が痛む。きっと、さっきの言葉が章大を傷付けた。
「違うよ、...見られたら、」
『...あぁ、...せやな、』
苦笑いを浮かべて章大が私の手を引いた。無言で歩き出して、引かれるままに着いて行く。
子供の頃によく遊んだ神社の裏手まで来て手が離れると、章大が私の頬を掌で包んだ。
『ごめんな』
「...........、」
頷けばいいだけなのに、どうして出来ないんだろう。
許さないなんて嘘なのに、仕方がないことなのもわかっているのに、ずっと傍に居て欲しいのに。
『......キス、していい?』
今度は小さく頷いた。安堵の表情を見せた章大の片手が私の頬から離れ、手の甲で自分の唇を拭う。その手に再び頬を包まれて、唇が触れると同時に片手で腰を引き寄せられた。
「...もう一回、して、」
触れていた唇が離れてすぐに言った。章大が笑って私を見つめた。
『一回でええの?』
「やだ」
『...俺も』
抱き締め合って何度もキスをした。心の奥を陣取った未だに残るモヤモヤは暫く消えそうにないけれど、こうしている間は間違いなく章大は私だけのものだと思える。この瞬間だけじゃなく、私はずっと、24時間章大だけのもの。今もこれからも、それは変わらない。変えたくない。
『#name1#おかえり!』
「わっ!航ちゃん!」
玄関を入ったら足元に飛び付いてきたその子を受け止めた。近くに住む親戚の子供の航大くんは、私にニコニコと笑顔を向ける。
『航大、俺はぁ?』
『章大おかえり』
私に笑顔を向けたまま章大に言うから笑いながら航ちゃんを連れて部屋へ入る。
これから出掛けるらしい双方の親に航ちゃんの世話を任され、二人を見送った。
『航大、先風呂入ってまお』
『えー、#name1#がいい』
『あかんの!航大は男の子で#name1#は女の子やからあかんのー』
「何言ってんの、」
章大が膨れている航ちゃんを擽って笑顔にすると、抱き上げお風呂場へ向かった。
なんか、ちょっと想像してしまう。ずっと先のことになるだろうし出来るかもわからないけれど、もし私達が結婚出来たとして、章大と子供とこんな風に過ごす日が来るんだろうか。
一人になった部屋で、放課後の光景を思い返していた。やっぱり胸が苦しくてチクチクと痛むけれど、強くならなければ。私だって章大を傷付けた。
内緒の恋は試練だらけでこれから上手くいかないことばかりだろうし。けれど、何があったってやっぱり章大と一緒に居たいし章大が好きなことに変わはないんだから。
お風呂から聞こえてくる二人の大きな笑い声を聞きながら、視界の端のテーブルにお母さんが出して行った航ちゃんのバスタオルを見つけた。それを手に取りお風呂場へ向かい脱衣所の扉の前まで来たら、航ちゃんの大きな声が聞こえた。
『航大、#name1#と結婚する!』
『えぇ?航大はリリちゃんが好きなんやろー?』
その会話を聞きながら静かに扉を開けて、頬を緩めながら中にタオルをそっと置いた。
『けど#name1#も好き!』
『あかんよぉ。#name1#は章大と結婚すんのー』
『章大も好きなの?』
『好きやで。航大はさぁ、リリちゃんもおるやろ?章大はな、#name1#しかおれへんのよ。せやから#name1#は章大にちょうだい?』
章大が内緒話をするように声のボリュームを落として言った。
息が詰まりそうな程胸が苦しい。慌てて脱衣所から出て静かに扉を閉め、扉に背を預けた。
『...んー、じゃあいいよ!』
『んふふ、ありがとぉ』
『おう!』
『...けどなぁ、航大がもしこのこと誰かに言うてまうと、章大と#name1#はな、結婚でけへんようになるかもわからんしな?』
『なんでー?』
『なんでもー。』
『ふーん...』
子供相手だとしても、そんなことを言ってしまうなんて。バカ。本当にバカ。もし本当に航ちゃんが言っちゃったらどうするつもりなんだろう。
『せやからさ、航大と章大の秘密にしてくれへん?パパにもママにも秘密。』
『...わかった!秘密!』
『男の約束やで?』
『言わないよ!男の約束ね!』
『あ、#name1#にもまだ言うたらあかんよ?章大がな、めっちゃ強くてええ男になったらぁ、自分で#name1#に言うから。それまで内緒!』
『航大もめっちゃ強くてええ男になったらリリちゃんと結婚する!』
『あはは、頑張ろな』
頬を伝ってきた雫を慌てて掌で拭いリビングへ戻った。思いの外早くお風呂場の扉が開いた音がしたから階段を駆け上がり、自分の部屋へ入る。
嬉しさと幸せで胸が苦しくて、拭いても拭いても涙が勝手に溢れてくる。
小さい頃から章大には泣かされてばかりだ。けれどこんな涙は今まで知らなかった。これが、胸がいっぱいってやつかもしれない。
『航大ー、#name1#居ったぁ?』
『いないー』
私を呼ぶ声が下から聞こえたから、慌ててティッシュで涙を拭う。
早く止めないと。胸を押さえて深呼吸を繰り返した。
『#name1#ー!いい事教えてあげるから出て来てー!章大がねー』
『おいコラ!何言うつもりや!』
『へへ!』
『#name1#ー!』
二人の足音が階段を上がってくる。急いで鏡でチェックしていると、ノックされたドアがゆっくりと開いてそこから覗いた二つの顔を満面の笑みで迎えた。
もう大丈夫。辛いことに立ち向かうための小さな決意とその勇気は、たっぷりの大きな愛で包まれて強固になった。
私達なら、きっと大丈夫。
End.
- 12 -
*前次#
ページ: