euphoria


TWINS!!~VD battle~


この時期のソワソワ感は嫌いだ。
一週間以上も前から、男の子も女の子もみんな浮かれていて、私は違う感情でソワソワしていて。
去年のバレンタインに見た光景は忘れられない。

『おはよ!』
「あ、おはよー」
『昨日ありがとね』

隣を歩いていた章大が顔を上げて私を見たのがわかったから、ちらりと目を向ければ、無表情で私を見ていた。

「...あ、全然!」
『や、ほんとに助かったから』
「あ、うん、」

手を振って私たちを追い越した藤井くんの背中を見ながら、章大がボソッと言った。

『...友達と買い物...友達...』
「...や、違うよ、そんなんじゃなくて、」
『声でかい』
「...違うよ、?」
『そういう時はな、“友達”ちゃうねん。“男”言うねん』
「...だからぁ、」
『何?逆ギレ?』
「章大が聞かないからでしょ!」
『お前俺に嘘ついてよくそんなん言えるなぁ?』

ムカついた。私がいつもどんな気持ちでいるか知らないくせに、自分のこと棚に上げて、...ムカついた!

「自分だっていつもプレゼントとか受け取って、私になんも言わないくせに!」
『ちょ、!声でかい言うてるやろ!ていうか受け取っても食うてへんし!』
「八方美人!偽善者!」
『...おっ前ええ加減にせえよ!』
「今日も一緒に帰れない!“友達”と!約束あるから!」

ふんっ!と声に出てしまいそうな勢いで背を向けた。ホントむかつく。人の気も知らないで。

バレンタイン独特の浮ついた雰囲気は好きじゃなかったけれど、昨日友達に一緒にチョコレートを作ろうと誘われた。誘われてみたら自分も何だか妙に浮ついた感情が出てきたから、きっと私は普通に恋愛出来る人達を妬んでただけなんだろうとぼんやり考えていた。

昨日は、今日の材料を買うために一人で買い物に行った。びっくりさせたいし、章大に一人で買い物すると言ったらついて来そうだから、友達と買い物と言って仕方なく嘘をついてしまった。
バレンタインコーナーで偶然会った藤井くんは、女の子に混じって恥ずかしそうにチョコレートを見ていた。声を掛ければ、逆チョコだと言うから驚いた。
『どんなのがいいかわかんなくて、』
だから少し付き合ったのは事実だ。
お礼にお茶でもと誘われたけれど、断ったから本当に一瞬だったのに。

最近毎日のように思い出す去年の光景。...章大はたくさん貰っていた。家に来た子もいたし、もちろん学校でも。
普段から色々貰っているのに、バレンタインともなればその数は当たり前に増えるわけで。

何がキッカケになるかなんてわからない。チョコを貰ってその子のことを気にするようになってしまったり、するかもしれない。
私達は絶対表に出してはいけない関係で恋人宣言なんかすることは出来ないし、もしも、...もしも、いつか章大の気持ちが他の誰かに向いてしまったらと思うと、本当は怖くてたまらないのに。

友達には、好きな人がいるなんて言えないけれど、あげる人がいないから章大にあげると話したら、何だか物凄く楽になった。
何となく忘れていた。いつもこそこそと行動していたから、こんな気持ちは久し振りで。それと同時に、みんなこんな気持ちで手作りするのかと考えたら、少しだけ胸がチクチクと痛んだ。
...確かに、こんな気持ちを込めた物を受け取らないわけには、いかない、...かもしれないけど...。

その日は口を聞かなかった。
こういう関係になってからは初めてかもしれない。
多分、バレンタインじゃなければこんな気持ちにはならなかったんだ。私の中のイライラが、余計に意地っ張りを主張してしまった。



「 ......おはよ」
『...はよ』

ダイニングテーブルで先に朝食を摂っていた私の隣に座った章大は、寝ぼけているのかいつもよりボサボサだ。

『あんた、今日バレンタインよー?もっと男前にしないとモテないよ!』
『...あー......んー、』

呆れたようなお母さんの言葉に曖昧に返事をした章大をちらりと見ると、ぼーっとしながら両手でお椀を包んで味噌汁を啜っている。
頭の上の寝癖が気になって叩くように押さえると、章大が眉間に皺を寄せてゆっくりと私を見た。

「寝癖。ひどい」
『直してー』
「...自分でしなよ」
『ほんっとシスコンなんだからー。それじゃあモテない!』

何度も同じ事を言うお母さんに章大が笑って私を見た。

『モテへんと困るから直してー』

睨むように章大を見た。
...ほんっとわかってない。
立ち上がってバッグを掴み、いってきます、と小さく呟いて家を出る。
鈍感なのか、面白がっているのか、わからない。私達がこうなる前と状況は然程変わっていないから、章大が悪いわけじゃないかもしれないけど。それでも、大丈夫だよ、とか、そんな言葉が欲しかっただけなのに。

浮かれた空気が漂う学校の中で、家に置いてきてしまったチョコレートを思い浮かべて机に突っ伏した。
ドキドキしている。章大はもう来ただろうか。もう貰っていたりするんだろうか。

休み時間の度にソワソワしていた。
気になっていたけれど、章大のクラスを覗く勇気もないまま、もう昼休みだ。

『#name1#ちゃん、ちょっといい?』

気付けば机の前に藤井くんが立っていた。ちょっと来て欲しいと言われて立ち上がり教室を出ようとしたら、後ろのドアから私を見ている章大と目が合ってドキッとした。章大が不機嫌そうに目を逸らしたから、藤井くんの後について教室を出た。

廊下の突き当たりで立ち止まると、藤井くんがポケットから小さな包みを取り出した。見覚えのある赤いラッピング。

『...これ、貰って欲しいんだけど』

驚かずにはいられない。だって、一昨日一緒に選んだそれを、今差し出されているんだから。

「...え」
『...好きなんだけど』

何から口に出していいかわからなくなってしまった。ただ、早く断らなければいけないのだけは、わかっている。

「...受け取れない、...ごめんなさい、」

苦笑いの彼を見ながらもう一度「ごめんなさい」と頭を下げて背を向けた。
章大に伝えるべきか。でもまたあの人のことで拗れるのは嫌だ。...けど、いつも言わなければ怒られる。

ソワソワしながら教室に入ろうとしたその時、私のクラスにまで聞こえるほどの大声で隣のクラスの章大を呼ぶ声が聞こえた。声の主に目をやると、...見覚えがある。
いつも廊下でみんなに見せつけるように堂々と、章大に手作りのお菓子を渡している子だ。
動揺して鼓動が早すぎる。教室のドアの前で立ち尽くしていたら、章大が出てきた。

『あー、ありがとぉ』
『ううん!』
『...けどな、受け取られへんわ』

章大がそんな断り方をしたのは初めてで驚いた。呆然とする女の子に手を合わせてもう一度『ごめん!』と言って教室へ戻って行った。

授業が始まっても、さっきの光景を思い返してまだドキドキしていた。
安堵と困惑で何も考えられない。

『#name1#ー、帰ろぉー』

喧嘩なんてしていなかったみたいに大きな声で私を呼びながら入って来た章大が、私の机の前に立った。章大のバッグに目を向ければ、いつもと変わらずぺたんこだ。

『...帰ろ』
「......うん、」

立ち上がった私に、章大がいつものように微笑んだ。学校を出ても暫く無言のまま歩いていたら、章大の手が私の手に軽く触れてから緩く握られた。

『#name1#が寝癖直してくれへんから、チョコ全然貰えんかったー』
「......嘘つき」
『...なんで?』
「見た」
『...なんやぁ。...ほら、おとん、太ってまうやろ?』

私を見て笑った章大が、鍵を取り出して玄関を開けた。部屋に入って着替えていたら、章大が入ってきた。いつもみたいに下着姿の私にちょっかいを出すこともなくベッドに座った章大が、私を見ずに言った。

『...告られたん、?...あいつに、』
「...うん、...でもね、あの日はたまたま会っただけで、」
『...うん、わかってる』
「...ちゃんと、断った」
『ドキドキした』
「.............、」
『せやから、俺も、...貰うのやめた』

章大が手を広げて待っているから歩み寄ると、腰に腕を回して私のお腹に顔を埋めた。

『ごめんな、』

私もごめん、と言おうとしたけれど、立ち上がった章大に唇を塞がれて叶わなかった。

『知ってる?今日な、おとんとおかん、デートやねんて』

そのまま絡みつくようなキスに変わってベッドに押し倒された。抱かれながら目に入った机の脇の紙袋の存在のせいで、ますます胸が高鳴った。


『おとんとおかんキスしてたー!』
「え!」
『めっちゃ酔うてる!』
「仲良しだね」

夜、お風呂を済ませて私の部屋に来た章大は何だかご機嫌だ。
私は、心臓がバクバクしている。

「章大、」
『んー?』
「...はい、」

紙袋の中の青いラッピングを見て、章大の目がまん丸になった。
息を吐き出して章大を見つめると、章大が笑った。

『...喧嘩したから、ナシか思てた』
「...それね、」
『...#name1#が作ったんや?』
「なんでわかるの、」
『...や、...ラッピングが、』
「...下手くそだって言いたいの?」
『そ、こまで言うてへんやん!』
「そこまでって何!」
『むっちゃ嬉しい!ありがとう!』

大事そうにそっと箱を置いて、章大が不貞腐れる私を抱き締めた。機嫌を取るように何度もキスをして、おまけに『愛してる』なんて囁かれたから頬を染めた。

『...今日、#name1#の部屋泊まっちゃおー』
「...お母さん、来ちゃうよ、」
『来たこと無いやん。酔うてるし大丈夫やて』
「...でも、」
『...嫌や。戻らん』
「..........、」
『...お願い』

嫌なはずない。何度も繰り返されるキスを、一晩中でも受け止めていられる。
せっかく作ったけど、心を込めたチョコよりも、今こうして私だけを見てくれていることに満足してしまう私は、一番の幸せ者に間違いない。


End.

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