Yellow
“ 明日何時やったっけ? ”
“ 10時です。起こしますか?”
“ 9時に電話ちょうだい ”
“ わかりました ”
そんなメールのやり取りをしてから2時間後。
帰宅途中の車で着信音が響いた。仕事用の携帯だ。車を道路の脇に寄せディスプレイを見れば、さっきメールをした人物。
「もしもし、どうしました?」
『出んの遅いわ!ちょ、今から来て!』
「...酔ってます?」
『酔ってるー!はよ来て!』
「...私今帰るとこなんで、」
『ほんならついでに迎えに来てや!』
「...今は自分の車なんで、」
『...ええからはよ来いや!』
ブチっと切られた電話のあとに、ご丁寧に今彼が居るであろう場所の住所がメールで送られてきた。
仕方なく、思いの外ここから近かったその場所へと車を走らせる。
車を近くのパーキングに停めて歩くと、そこに居たのはテレビでもよく見かける彼の友達数名と、友達に支えられて笑いながら立っている錦戸さん。こんな状況でも同業者さんだし、挨拶は欠かせない。皆さんに挨拶をしている間にも、男の子に抱き付いてキスをしている。
「ちょっと!それ撮られたりしたら洒落にならないですから!」
『んー...』
男の子に抱えられたままの錦戸さんの尖らせた唇が、私の唇にくっついた。
『あはっ、めっちゃやーらかい!』
「ちょ、!だからもうこんなとこで!」
ご迷惑をお掛けしました、と言って彼を引き取り肩を貸して歩く。
実はさっきのキスが尾を引いている。錦戸さんの顔が見れないくらいドキドキしてしまっている。
あなたは楽しんでるだけで良いかもしれないけれど、素面の私は全部をさらっと簡単に流す事なんて出来ない。
普段から肩を組んだり、手を握ったり、いつも無自覚でそういうことをするから、私は...。
『#name2#ちゃん、早かったやん!』
「#name2#ちゃんて!...早く来いって言ったの誰!」
『俺やなぁ、』
「でしょ」
『家まで、おねがいしまーす』
「タクシーじゃないです」
言いながらドアを開け、後部座席に押し込んだ。シートに倒れ込んだ錦戸さんは顔を上げて私にへらりと笑うと、突然腕を掴んで引かれ、彼の上に倒れ込む。
「ちょっともう!いい加減にしてくださいよ!」
『...嫌なん、?』
「嫌です!」
『...ちょっとだけ』
ドアが閉められ、唇が重なった。性急に舌を差し込まれ絡めるから慌てて錦戸さんの肩を押す。けれど背中に回った腕にますます引き寄せられ、彼から香るアルコールの匂いに、私まで酔いそう。
すぐに錦戸さんの手が私の腰の辺りまで下がり撫でるから、思い切り胸を押して離れた。
『...もうちょっと、』
「...っやめて!私の車なんだから外から見えるでしょ!」
『見えたってええやん、』
「いいわけないでしょ!」
『...ヤりたい、』
「...私をそういうことに使うのはやめてよ、...ただのマネージャーなんだから」
『............、』
黙った錦戸さんを残してドアを閉め、運転席に座った。車を走らせても錦戸さんは黙って外を見ていた。
「着きましたよ」
『...おん、』
「...降りて、」
黙ったまま動かない錦戸さんを促すけれど、俯いたまま動く様子はない。小さく溜息をつくと、錦戸さんの目が私に向けられた。
『...呆れてる、?』
「...呆れてる」
『...キスのこと?』
「他にも」
『キスは男にしかしてへんやん』
「...私も男だって?」
『や、ちゃうよ!#name2#さんの他に女の子にはしてへんやろ?』
「...そういう問題じゃないよ、」
『...好きやからキスしたらあかんの?』
驚いて後部座席を振り返ると視線が絡んだ。顔を見たら、冗談じゃないことくらいわかる。
でも、ダメだ。
前を向いてから、顔を見ずに言った。
「もう、そういうのはいいよ」
『何がやねん、俺は全然ええことないで』
「私じゃない人で遊んでくれる?」
『遊んでへんわ!』
大きな声を出すから驚いて振り返ると、後部座席から身を乗り出した錦戸さんが睨むように私を見つめる。
『...断るんやったら、ちゃんと受け止めてからにしてや』
怒りの中に悲しみを含んだような、そんな目をしていたから、錦戸さんから目が逸らせなかった。
「......ダメだよ、」
『...ダメ?...俺が嫌いやから?それとも、仕事上?』
「...嫌いとかじゃ、なくて、」
『じゃあ好き?』
じっと見つめられて、心の中が何もかも見透かされてしまいそう。
...どうしよう。
『...好き?』
「...ちょっと、待って、」
『...好きやて、言うてくれや、』
後部座席からますます身を乗り出して抱き締められた。
こんなんじゃ、外から丸見え。
だけど拒むことが出来ない。錦戸さんが、震えている。
「...錦戸さん」
『..................。』
「...好きです、......けど、やっぱり仕事上、」
『...ほんまに?』
「..................、」
『...最後の言葉、聞こえへんかった』
ぶつかるように始まったキスで、何も言えなくなった。きっと、キスをしていなくても、言えなかった。
抱き寄せられた腕の中で知ってしまった幸せを、二人で隠し通すと決めた。
End.
- 7 -
*前次#
ページ: