19
私の部屋の玄関の前に座り込む男を見て、一瞬呼吸を止めた。顔を伏せていても見覚えのある、黒いキャップ、ライダース。
『おかえり』
顔を上げた亮が、私を見てはっとして慌てたように立ち上がりながら言った。
何故か苦笑いを浮かべる亮をちらりと見たら、亮の方が先に気まずそうに私から目を逸らした。
「...何してんの...」
...だって今までこんなこと、したことないじゃない。それに、一昨日一緒に飲んだ時は、何だか不機嫌で私を避けるような態度を取っていたのに。
『な!俺何してんねやろ!』
一昨日とは大違いの明るい声。そのわりに目を合わせないから、何だか妙に緊張してしまう。
こんな所でわざわざ待ってるなんて、何をしに来たの。あんな態度を取ったくせに、わざわざ何を言いに来たの。
「用があったから来たんでしょ...?」
『そういうわけでもないねんけど...なんでやろな、わからん...』
始終指先を落ち着きなく動かしながら、歯切れの悪い返答が返ってきた。尚も苦笑いする亮に「...何それ」と呟くと、やっと顔を上げて私に目を向けた。
『...わからんけど、会いたくなって』
時が止まったように感じた。亮の口元に浮かぶ笑みは、私をからかっているようなものでないことはわかる。...けど、それなら余計に、なんで...?
『...あー...何言うてんねやろ、俺...』
掌で目元を覆った亮の口元は、さっきまでの苦笑いではなく照れくさそうな笑みを浮かべている。それを見てしまったら何だか恥ずかしさが込み上げて俯いた。
『...ちょ、もー...やめてや...なに照れとんねん...』
きっと私の赤く染まった頬を見て言ったんだろうけれど、亮を見ることは出来なかった。
「...避けてたくせに、」
『...それは、アレやん...』
私の照れ隠しの言葉に困ったように笑った亮が、言葉を詰まらせて俯く。
「...言い訳なら中で聞く」
ちらりと目を向ければ眉を下げ目を丸くした亮と目が合った。私を見たまま頷いた亮が緊張したようにゴクリと唾を飲むから、期待に高鳴る胸を押さえて鍵を差し込んだ。
『...ええの?』
「..............、」
『部屋入れるって、そうゆうことやで?』
「...言い訳、あるんでしょ」
照れ隠しに睨むような視線を亮に送れば、腕を掴んで開いたドアから部屋の中へ押し込まれ、壁に押し付けられた。言葉を紡ぐ暇もない程の性急なキスは、長い夜の始まり。
End.
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