euphoria


18


終電に間に合わなかった。
...でも本当は、間に合わなくてもいいと思っていた。

今日の職場の飲み会の会場が章大の家の近くだというのは知っていたし、近くだというだけで無駄にそわそわしていた。
終電に間に合う時間に時計を見たけれど、慌てることもなくみんなと一緒に店を出た。
『時間大丈夫?』と聞かれ、
「近くに友達がいるから」と返した。

この前章大が言ったから。
“ ええよ。いつでもおいで ”
期待しないはずがない。そんなことを言われたら、当たり前に期待するでしょ。
夜遅いのは気が引けたけれど、“会いたい”の方が大きかった。

一度だけ来たことのあるマンション。そのマンションの前にぽつんと小さくしゃがみ込む愛しい姿を見つけて手を振った。
すると立ち上がって小走りで私に駆け寄って来た章大が、私の頭をパシリと叩いた。

『何しとんねん、こんな時間に!』
「終電、乗れなかったから」
『それさっきも聞いた』
「いつでも来ていいって言」
『ちゃうよ。一人で歩いて来んな言うとんねん。こんな時間に!』

寒いわ!と付け足して私に背を向け、自動ドアを潜ったスウェットの後姿を見て胸が高鳴る。いつも会う時は当たり前にプライベートだけれど、いつも以上にオフな雰囲気のその姿が、何だか物凄く特別だったから。



『おやすみー』
「...ん、おやすみ」

章大のベッドの中で、隣には章大。
酔いが冷めるにつれて、とんでもない事をしているような気になってくる。
章大の向こう側にあるベッドサイドの照明だけが薄く灯る寝室で、章大が溜息のような息を吐き出した。ちらりと章大に目を向ければ、章大がこっちを向いていたから慌ててもう一度「おやすみ」と言って掛布団に隠れるように顔を埋めた。
...緊張して寝られない。こんなに近い距離に章大がいるのだから当たり前だ。

すると掛布団が少し浮き上がり、章大がモゾモゾと動いたから体が強ばる。少し顔を覗かせて見遣ると、さっきの私のように章大が布団に顔を埋めていた。と思ったら、急に腕を掴まれたから驚いた。

「...な、何」
『ん?』

布団から顔を出した章大が、驚く私を見て笑みを浮かべた。一瞬で私の首の下に入った章大の手に引き寄せられて、一気に距離が縮まる。
目の前で口角を上げた唇を見ていたら、あっという間に近付いて私にキスを落とした。離れてすぐに噛み付くように荒々しく重なった唇。同時に章大に借りたスウェット越しに、腰から背中へ章大の手が這ったからぞくりと体が震えた。

「...ちょっ、待っ、」

キスの合間に肩を押した。章大が口の端を上げて私を見ながら、スウェットの中に手を入れ擽るように素肌を撫でる。

「...まさか、...するつもり...、?」
『ん、するつもり』

可愛らしい返事と幼い笑顔で笑う章大の手は、私の背中と下着の間に滑り込んで肩紐をずらす。

「...なんで、」
『こんな時間に家来るからやん』
「だって...終電、乗れなかったから...」
『ん、終電な』

章大の体に体重を掛けられるようにして仰向けにベッドに押し付けられ、章大を見上げた。

『しゃあないよ』
「...章大、」
『俺んとこでよかった』

章大の手が髪を撫でて私を見つめた。

『来てくれたんが、俺んとこでよかった』

視線が唇に落ちると同時に吸い寄せられるように顔が近付いて唇が重なった。私の早過ぎる鼓動を、胸を這う手に気付かれるのが悔しい。けれどあまりに幸せそうに笑いかけるから、愛しさが募ってどうしようもなくて、引き寄せるように章大を抱き締めた。


End.

- 18 -

*前次#


ページ: