駆け回る昼休み
早い鼓動は緊張のせいか全速力のせいかわからない。いつもの場所に先輩の姿は見えなくて、息を切らして学校中を走り回った。
もうすぐ昼休みが終わってしまう。
「先輩、」
校舎から出たところで数人の白シャツの群れがコンビニの袋を片手に校門を入って来た。その中に紙パックのジュースのストローをくわえた安田先輩の姿を見つけて大きく息を吐き出す。
『…あ、どしたん』
目が合って私に気付いた安田先輩が目の前に駆け寄ってくる。その横を先輩の友達がすり抜けて次々に校舎へと入って行った。
息を切らした私を見てふっと先輩が笑うと、予鈴が鳴り出したから気持ちが焦ってますます鼓動が早くなる。
「あの、放課後…」
首を傾けた先輩が私に笑顔を向けて言った。
『丸と約束してるー』
「あ、そうですか…」
『うん』
胸の奥がぞわぞわと苦しいのは、走ったせいだということにしておこう。
目を逸らしてもう一度深呼吸。
ダメだった時に言う言葉は決めていた。顔を上げればまた先輩と目が合い、口を開きかけた。
『一緒に帰る?』
「…や、」
『丸に言うとくー2人で帰るって』
「え!」
思わぬ展開に目を丸くすれば、それを見てまた先輩が笑う。
...いいんだろうか。マルちゃん先輩と約束していたのに私となんて、本当にいいんだろうか。
『ほな帰りな』
言葉を返せずにいると、手にしていたパックを口元に運び、先輩がストローをくわえたまま口の端を上げて私の横をすり抜ける。だから慌てて振り返って先輩の背中に声を掛けた。
「あ!私、門で待っ」
『迎えに行くな?教室』
少し振り返って私の言葉を遮り、反対の手でヒラヒラと手を振ってまた先輩が背を向けた。
顔が熱い。その顔を覆った手が震える。胸がきゅんと痛んでどうしようもなくドキドキする。
授業開始のチャイムに慌てて駆け出しながらただただ先輩だけを想う、幸せな午後の始まり。
End.
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