01
『あんな、今日な、めっちゃ頭が痛いんです』
「バカ」
『バカってなんやねん!』
「バカだからバカって言ってんの!早く教室戻れ!」
『頭痛いんやてー!倒れてまうってぇ!ええの?』
「倒れない!」
『なんでわかんねーん!』
「じゃあ熱計って。37.5℃以上あったら居ていいから。不正はダメ!」
『はーい。やった!』
ちょっと男前だけど、なんだか子供みたいな高校生。私の恋人です。内緒です。
赴任してくる前から付き合っていたから、この学校に決まったときは本当にびっくりした。
彼は毎日保健室にやってくる。まだクビにはなりたくないからあまり来て欲しくはないけれど、言うことをなかなか聞かない。
それでも、人がいれば敬語を使ったり、ちゃんと理解はしているみたいだ。
熱を測りながら私をぼーっと見ている忠義の視線が気になって、忠義を流し目で見遣る。
「...何」
『...学校やとめっちゃ冷たい...』
「だから家で優しくしてるじゃん」
小声で呟くから、小声で返した。
何を思い出しているのかわからないけれど、一人でニヤニヤしているから納得したらしい。
『あ!見て!37.5やー!』
「...なんで...?」
『不正してへんやろ?見てたやん!してへんやん!』
「...どうぞベッドお使いください」
『一人は寂しいからベッド嫌や、』
「子供か!」
そこへノックの音がして、女子生徒が入って来た。指を押さえているティッシュが赤く染まっている。
「わー、大丈夫?見せて」
『あ、大倉くん...』
『あ、どうもー。大丈夫?』
『ちょっと切れちゃって...。大倉くんは?』
『俺熱あんねん。寒いからストーブんとこ、』
「大倉!ちょっと邪魔。椅子ないからどいて」
『...はーい、ベッド借りまーす、』
ベッドへと歩く忠義の姿を、女の子が目で追っていた。顔が赤い。
...なんとなく、そんな気はした。実はこの前もこの子は保健室に来た。その時も忠義をじーっと見ていたから。
忠義はモテるのに彼女を作らないと、女子生徒達が話しているのを聞いたことがある。この子はきっと、忠義が保健室に入り浸っているのをよく知ってるはずだ。
彼がモテるのが気になるのも事実だけれど、それよりバレないようにする方が大事。
女の子に、ちょっと押さえててね、と止血させて、忠義の寝ているベッドのカーテンを開けた。振り向いた忠義に下手くそなウインクで合図してから言う。
「大倉、お母さん呼ぶ?」
『...?...え?...ん、あー...呼びます...』
「自分で出来るよね?」
『出来まーす。あ、先生、ピタってするやつください』
「はい。ちょっと待ってて。あ、先に電話しちゃってー」
『はーい。』
本当に熱があってここに来てるんですよアピールをする。一応ね。
それでも安心とは言えないけれど、しないよりはマシ。女の子は勘がいいから。自分の気休めにしたいだけなんだけれど。
『あ、おかんー?』
「ちょっと!携帯で電話するな!」
『俺熱出てん!え?えー、わかったぁ』
手当てしていると、カーテンの中の忠義の声を聞いた女の子は、クスクスと笑って私を見た。
『大倉くん、熱あるように見えないですよね』
「見えないねー。先生最初追い返そうとしちゃったもん」
『そうなんですか!』
『先生ー。おかん後で来るー』
『はーい。了解』
『先生ー。ピタってするやつ、はよして』
「はいはーい。...これで大丈夫。あんまり動かさないようにね」
『はい。ありがとうございました!』
「いいえー。気を付けてね」
私にペコリと頭を下げた女の子は、保健室のドアの前で立ち止まった。
こちらを振り返って私と目が合うと顔を赤く染めて笑った。すると、忠義が寝るベッドのカーテンの前に動いた。
『お、大倉くんっ、お大事にね、』
『え、あ、ありがとぉ』
嬉しそうに笑ったその子は、また私に頭を下げたから、笑って手を振った。
なんか複雑。...でも大人だから、我慢。
女の子が保健室から出て行ってしばらくすると、忠義に頼まれたあれを渡していないことに気が付いてカーテンを静かに開けた。
布団に包まる忠義は頬を赤くして寝息を立てていた。そっと額に触れてみるとやはり熱くて、熱が上がってきたみたいだ。手に持っていたそれを忠義の額に貼り付けると、眉間に皺を寄せぴくりと動いた。
本当に家に電話したわけではないだろうから、そのまま寝かせておくことにした。忠義に背を向けると後ろから腕を引かれる。
『...もう誰も居らん?』
「いないよ。少し寝た方がいいよ。熱、上がってる」
『えー...嫌やぁー。一緒に寝て?』
「バカ。」
『しんどいけど寂しいー!』
「我慢」
『...我慢したら、ええことあんの?』
「...今日だけ。送ってあげる」
『...ほんま?』
身体を起して目を輝かせた忠義が、嬉しそうに笑顔を見せた。
送ると言っても、大した距離ではないことをわかっているはず。それでもこんなに喜んでくれるのだから、私も...ちょっと嬉しい。
普段なら絶対にこんなことはしない。
忠義が熱があるからなのか、あの女の子のせいなのか、それは知りたくないから考えないようにした。
「じゃあ、放課後まで静かにおやすみくださーい」
『はーい...』
「おやすみ」
『...おやすみ』
突然手を引かれて倒れ込むと、座っている忠義の腕の中に閉じ込められ、唇が重なった。くっついただけの唇が離れると、私を解放してすぐに忠義が布団に潜った。...唇、熱かった。
『舌入れたかったけど我慢したー。#name1#、...先生に移したら嫌やし』
こんな子供みたいな高校生に翻弄されている自分は嫌いじゃない。
高校生のライバルに取られるのはごめんだから、明日からもう少し、...少しだけ、優しくしてあげよう。
End.
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