02
職員室から戻りドアに手を掛けると、保健室の中から物音がしたから急いでドアを開けた。
「ごめんねー、職員室行って...た...」
中を覗き込めば、保健室の窓側の端のベッドの上に大きな子供みたいな男子生徒が膝を抱えて座っていた。扇風機の強風に当たりながら。声を発した私の方には見向きもせず、無表情でただただ風を浴びている。その横顔を呆れたように見つめていれば、不機嫌な表情にも見えなくはない。
「なんで11月に扇風機...」
『..............。』
何も返してこないところを見ると、やっぱり機嫌が悪いらしい。
でも今日ここに来るのは既に3回目だし、わざわざ来ているのに私を無視するということは、拗ねている以外考えられない。
「...どしたの?暑いの?」
普段学校で話す時よりも幾分か優しく声を掛けてみれば、ちらりとだけ私に目を向ける。そしてわかりやすく拗ねたような顔に変わって唇を尖らせた。
『...寒い』
「は?」
思わず聞き返すと表情は更に不機嫌さを増して、また扇風機と正面から向かい合う。
『...風邪引いたろ思て』
「...なんで」
口を噤んでただじっと不機嫌そうに扇風機を見つめているから、忠義の言葉を黙って待つ。
男子高生の気持ちはいまいちよくわからない。単純な子も多いけれど、忠義はたまに突拍子もないことを言ったりするから。
「大倉」
いつまで経っても口を開く様子はないから呼んでみたけれど、ますます不機嫌になった顔がこちらに向いた。
『その呼び方無理』
「じゃあ、忠義」
『...........、』
いつもの“大倉くん”が来ると思っていたのか、少し目を泳がせて動揺した様子を見せた忠義は、膝に口元を埋めて呟いた。
『...だって今日、ヤスのおでこ触ってた』
一瞬何のことだかわからなかった。
けれど、今日忠義が2回目に保健室に来た時に一緒に連れて来た、発熱して早退した安田くんのことだと理解したら思わず笑ってしまいそうになったから堪える。
「...だから何、」
『...俺と扱い違い過ぎるもん』
...当たり前じゃない。いつもただ遊びに来ました!な感じの忠義とは違うんだから。
けれど高二にもなってそんな事で拗ねていたなんて、可愛いけれどさすがに笑いたくもなる。
『...風邪ひいたら優しくしてくれんねやろ?』
恨めしげな目を私に向けた忠義を見ていたら、自分で恥ずかしくなったのか気まずそうに顔を逸らす。
『前熱出した時は優しかった!』
一言文句を付け加えて扇風機を止めた忠義がベッドから立ち上がってドアの方へ向かう。
...我儘男子高生、めんどくさい。でもやっぱりそんなところも愛しい。
「じゃあさ、」
すぐにピタリと足を止めた忠義は、きっと最初から私が引き止めるのを期待していたはず。
「1時間だけ居ていいよ」
『...ほんまに?』
伺うような声は明らかに少し嬉しそうで、それに私が頷けば笑みを隠すように唇を噛み締めるから思わず笑みが溢れた。
『...ほんなら、大人しくしてます...』
控えめな言葉のわりに堪え切れず緩む口元はやっぱり単純。でも男心はやっぱり難しい。
『...1回だけ、』
「しないよ」
『...わかってるし。したらあかんよな?って言おうとしただけやし』
でも、そんなところもやっぱり可愛いでしょ?
End.
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