euphoria


04


蒸し暑い体育館。明日から夏休みだというのに、なーんか憂鬱。校長先生の話は始まってまだほんの2〜3分だけれど、昨夜遅くまで電話していたせいで眠気に襲われる。今なら立ったままでも寝られそう。

...早く終わらないかな。でも、終わったら夏休みになっちゃうんだった。夏休みになったら、毎日会えなくなっちゃう。安田先生に。

重たい瞼を必死に持ち上げていると、突然後ろから両方の肩を掴まれて、驚いて思わず声を上げそうになる。

『大丈夫?』

けれど、耳元で聞こえたその声でぐっと耐えた。

『保健室行こか。な?』

なんで?なんで、安田先生が?
動揺していた。みんながいる前で、なんで私に声を掛けるの?ドキドキし過ぎて上手く頭が働いてくれない。

肩を掴まれ私の体を支えるように背中が先生の胸にくっつけられる。注目を浴びているから恥ずかしくて顔が上げられない。状況をよく把握出来ないまま並んでいる生徒達の列から連れ出され、体育館の端まで来ると先生に抱き上げられたから驚愕する。
すぐに体育館の外に出ると、太陽の光が直接顔に当たって眩しさに目を閉じる。

『寝不足やろぉ。なかなか電話切らへんから。アホ』

やっとこの事態を把握し始めて目を丸くして先生を見上げれば、先生も何故か目を丸くして私を見た。

『...あれぇ?』
「..............、」

言葉が出て来ない私を見て先生がふっと笑みを零した。次第に顔が熱くなって、先生から目を逸らす。

『具合い悪いんか思ったぁ。目ぇ閉じてるから』
「...違うよ、」

校舎に入って先生が保健室のドアを足で開け、ベッドの上に私を下ろした。はぁーっと大きな溜息を零して腰を摩りながら、保健室の利用者欄に私の名前を記入している。

...思わぬ展開。突然やって来たふたりきりの時間が胸を高鳴らせる。

『完全に具合悪い人なってたやん』
「...眠かっただけ、」
『...ならええけどぉ』

自分の椅子に座って冷蔵庫からペットボトルを取り出した先生が、ミネラルウォーターをごくりと流し込んで私に差し出す。手を伸ばせば、立ち上がって私の前まで来てその手にキャップのついていないペットボトルを握らせた。

...っていうか、先生...

「...見てたの...?」
『んー?何を?』

私のことに決まってるじゃない。
でも何だか妙に恥ずかしくなって口に出来なかった。...なんか、自惚れてるみたいで恥ずかしい。
照れ隠しに受け取ったペットボトルの水を飲もうとして、先生が口を付けたそれに一旦躊躇ってから口を付けた。

『お前のこと?』

私が口に出来なかった言葉をさらっといとも簡単に言った先生にちらりと目をやると、首を傾げて私を見下ろしていた。だから目を逸らしてから小さく頷く。

『見てたで?だから今ここに居んねん』

先生が笑いながら私のいるベッドの端に座った。口元に笑みを浮かべたまま顔を近付けられてドキリとする。

『騙したん?』
「...え?」

私の手からペットボトルを取って先生が持っていたキャップを締めた。ベッドに手を付いてますますその距離を縮めると、至近距離で私を見つめる。

『具合悪いフリ、ちゃうの?』
「...ちがうよ、」
『ふーん』

信じていないような顔で笑って先生の唇が触れた。押し付けられてすぐに離れて、それでも真っ直ぐに私を見ている瞳から目を逸らす。するとまた唇を触れさせながら先生が言った。

『...どうする?』
「...なに、」
『ふたりっきりやなぁ』

私の唇を啄みながら笑って、頭の後ろに添えられた先生の手に支えられながらベッドに倒れ込む。髪を撫で、深く舌を差し込まれてその舌が絡むと、口の端から甘い吐息が零れた。

『今から、何する?』
「................、」
『...なぁ、#name1#』

私をからかうように笑みを浮かべながら見つめる先生は、やっぱり意地悪だ。

「...騙したのは、先生の方じゃないの...?」
『...どうやろな』

髪をくしゃりと掴んだまま先生がふっと笑ってまた唇が触れた。人気のない静かで蒸し暑い校舎にふたりきりだと思うと、どうしたってドキドキしてしまう。舌を絡める水音だけが耳に響いて、先生の体温に包まれた頬は紅潮する。

『なぁ、...する?』
「...無理だよ、」
『...そ?意外と大丈夫ちゃう?』

刺激的で憂鬱な夏休みのはじまり。


End.

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