euphoria


ripped off!!


ビールが入ったグラスを持ちながら、斜め向かいの席にいる章ちゃんに視線を向けた。隣の女の子と楽しそうに笑っているその顔は、あの頃より大分大人になっていた。

中学生の時仲の良かった章ちゃんに再会したのは、この大学に入ってからだ。あの頃、自分の気持ちを伝えられないまま、卒業と同時に初恋は終わった。

『#name1#、...俺、あいつ嫌や』
いつの間にか隣に座っていた章ちゃんに驚いた。そして、その発言にも。たった今まで話していた隣の女の子が嫌だなんて。

「...楽しそうにしてたじゃん、」
『ベタベタ触ってくんねん』

小さな声で話していると、煙草に火を着けた章ちゃんが、私の耳元に唇を寄せる。

『...つまらーん』

笑顔でそんなことを言うから軽く睨んだ。けど気にする様子もなく、楽しそうに笑うだけ。
顔を正面に戻した私の耳元でまだ笑っているから、煙たさに席を立った。

「トイレ。」
『いってらっしゃーい』

久し振りに会った章ちゃんは、随分毒舌になっていた。あまり表では言わないけれど、私とは仲が良かったせいかいつもこんな感じ。

トイレから出て店の入口の前を通ると、突然手を掴まれ引かれて、あっという間に店の外に出た。

「...なんで私のバッグ持ってんの」
『帰るから!』
「なんで私まで?」
『二人やったら、あいつらくっついたんや思われるやんか。一人で帰ったらただの感じ悪い奴やん、俺』

そんなこと言われたら、余計に帰りづらい。私とそう思われてもいいってこと?...それはちょっと、嬉しいけど。

『じゃ!』
「え!」
『何?』
「...置き去り?」
『...嘘やんか。面倒臭いけど送ったるわ』
「...結構です」
『送ったる言うてんねんから送られればええんちゃう』
「..........。」

20分ほど歩いてアパートの近所まで来ると、章ちゃんあたりをキョロキョロと見回しながら言った。

『トイレ行きたい...』
「コンビニ、あっち」
『遠いやん!めっちゃ小さく見えるで!』
「えー...その辺でしちゃえば?」
『...トイレ、貸して?』

私が目を細めて章ちゃんを見ると『なんやその顔』と言って眉間に皺を寄せた。

『お前なんかに手ぇ出す程女に困ってへんわ』

グサッ。今のはホントにグサっときた。...何なの、ムカつく。感じ悪い。

「...そんなこと思ってないし」
『ならええやん。貸して!』

そこからは無言だった。だって、ショックじゃない。前好きだった人だし、今も...ちょっとだけ気になっていた。

鍵を挿し込んで開け、睨むように章ちゃんを見て『どうぞ』と言った。
何故か深々と頭を下げて「お邪魔します」と言ったからそれを見ていると、顔を上げた章ちゃんと目が合った。私を見て口角を上げた章ちゃんは、玄関の鍵を締めて突然私に抱きついた。

『引っ掛かったー』
「...え、...は?」
『簡単に部屋に男入れたらこうなんねんで』

驚いて言葉も出ない私に、楽しそうに笑った章ちゃんが頭を押さえて唇を押し付ける。突然の事に、状況を把握するので精一杯で抵抗も忘れた。
抵抗しないわかるとといきなり舌が侵入して絡められ、いやらしい音に我に返って鼓動が早くなる。舌を吸い上げて解放されると、額を合わせて口端を上げて笑った章ちゃんが、私をしっかりと抱き直した。

「...女には困ってないんでしょ、」
『困ってはないけど』
「...何それ、...ムカつく」
『#name1#がええねん。#name1#だけでいい』

首筋に顔を埋めてきつく抱き締められたら、もう苦しくて堪らなかった。今の言葉、狡い。心臓痛い。...好き。
けど、悔しいからもう少しだけ黙っておこう。章ちゃんもちょっとくらい不安になったらいい。

『嫌がらへんから、...ヤっちゃお』

...全然、不安になんてなってなかった。


End.

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