euphoria


天使も悪魔も


『熱、なんぼ?』
「38.6...」
『聞いただけでしんどいな』
「でしょ。朝からちょっと熱っぽかったんだなー」
『だなー、やないわ!なんでわざわざ来んねん!』
「だって...、」

だって今日休んだら3日間も会えないんだもん。ヤスが好きだから、どうしても会いたかったから来たの。...なんてとてもじゃないけど言えないでしょ?

「でも、ほら、もう授業も終わったことだし」
『俺が送ってかなあかんやん。...めんどくさ』
「病人にも毒を吐くのね」
『今日買い物行こう思てたのになぁ』
「...........。」

先生がいない保健室の椅子に座り、ちょっとイラっとしているヤスを盗み見る。眉間の皺、こわい...。
ちっ、と舌打ちしたヤスに顔が引きつる。伺うようにそっとヤスをチラ見していると、氷のように冷たい目で私を見たヤスが、私の腕を掴んで立たせた。

『帰るで。掴んどってやるから自分で歩けや』

優しいんだか優しくないんだかわかんないけど、なんか嬉しい。一応は気遣ってくれているみたいだし、...触れられてるし。

私の家とヤスの家は50メートルくらい離れた距離にある。高校に入学する少し前に引っ越してきて、同じクラスでそれを知って急激に仲良くなった。
笑顔がふにゃふにゃして可愛い男の子だと思った。...最初は。でも、全然違った。毒舌過ぎて震えあがっちゃうくらい。
笑うと天使。喋ると悪魔。
でもたまに見せる優しさがギャップになって、いつの間にか恋心を抱いていた。。

「すいません...」
『べっつにぃー。』
「...トゲがありますね」
『そうですかぁ?』
「...でも、掴んでてやるって言って、学校出る時にはもう掴んでなかったじゃん。むしろ一緒に帰ってるだけじゃん。いつもと一緒じゃん!」
『...ほんまや!』

その笑顔、ほんとに天使。つられて笑っちゃうくらい、大好きな笑顔。だから冷たくたってひどいこと言われたって、冗談だってわかってるし、この笑顔で全部チャラ。

ヤスの家の前を通り過ぎて、私の家の前まで送ってくれた。(いつもは送ってくれないのに)

『じゃあな』
「何にもしてくれてないけどありがとうございました...」
『今度から37℃超えたら来んなよボケ!』
「.......はい、わかりました」
『じゃあな』
「....あ!」
『なんやねん!』


.......私は今、ヤスの家の、ヤスの部屋の、ヤスのベッドの上です。
さて、なぜでしょう。


鍵...忘れちゃった。家の鍵。
...怒ってる?怒ってるよね。
私が横になっているベッドに寄りかかってヤスが座っているから、ちょっとドキドキしちゃう。さっき裸も見ちゃったしね!着替えるとかなんも言わないで、何の躊躇もなくいきなりパンツになるから、鼻血出るかと思った。

横になったままヤスの部屋とかヤスの後頭部とか肩をキョロキョロと見ていると、急にヤスが振り返ったから心臓が跳ねる。

『オカン、何時頃帰って来るん?』
「7時、とか?...ごめんね、」
『...ええけど』

あれ?なんか予想外。ほんまふざけんなよ!とか言われるかと思ったのに。

するとヤスが立ち上がって何も告げずに部屋を出て行った。何も起こるはずはないけど、やっぱり好きな人の部屋は緊張する。こんなに一緒にいるのに、部屋に入ったのは初めてだから。

ガチャリとドアが開く音に、何故か焦って布団を被り直す。戻ってきたヤスがベッドまで一直線に歩いて来たから驚いてゴクリと唾を飲むと、私の顔にヤスの手が触れた。一気に鼓動が速くなって顔に熱が集まる。
すると、おでこの髪を除けてべしっと叩かれた。...じゃなくて、貼ってくれたみたい。冷たいアレを。...もー、今日は優しいなぁ。

「あ、ありがとう...」
『顔真っ赤やん。少し寝れば?』

赤いのはあなたのせいです。
部屋にもベッドにもヤスの匂い。なんか、嬉しい。幸せ。熱のせいかフワフワしてるし、余計に。
急に瞼が重たくなって、そのまま閉じた。


『#name1#』
ヤスが、天使の顔で笑ってる。
あー、その顔、好き。
『#name1#ー』
かっこいい。
って言うより可愛いなぁ。
『好きや』


ぱっと目が覚めた。
「......えっ!」
『おはよぉ』

目を開けたらベッドに頬杖をつき、覗き込む、天使の微笑み。
...か、顔、近い...
ていうか、夢?...そりゃそうか。

「...おはよ、」

ニッコリしたままずっと私を凝視しているから、とりあえず目を逸らしてみる。するとヤスは立ち上がって、鼻歌を歌いながらベッドから離れ、また部屋を出て行った。

すぐに戻って来たヤスの手には、スポーツドリンク。ベッドの前まで来ると、蓋をあけて私に差し出した。

『あ、起きられへんか。飲ましたろか?口移しで』
「な!何言っちゃってんの!」

思わず慌てて飛び起きた私を見て、ヤスが楽しそうに笑いながらスポドリを差し出す。
今日のヤスは優しいけど意地悪だ。

『いらんの?』

受け取らない私に首を傾げたヤスが言う。そんなヤスを不貞腐れたように睨んですぐに目を逸らした。
するとヤスはスポドリに口を付けた。ま、まさか...!
と思ったら、普通に飲んだ。...だ、大丈夫よ、期待なんてしてないから...。

『今ちょっと期待したやろ?』

ヤスが口端を上げて笑う。
本当に意地悪。わかっててそんなこというんだから。
赤くなった顔を誤魔化すように、わざと冷たい視線を送る。

「何を期待するの?」
『#name1#、俺のこと好きやろ』
「...........え、」

突然過ぎて固まった。思考停止。心臓も一瞬止まったんじゃないかと思った。でもすぐにすごい勢いで暴れだした。

『ちゃうの?』
「........え、?え、何?」
『さっき、好きって言うてた』
「......は、?」
『何回も。寝てる時』
「..........!!」

うそうそうそーーー!!
ヤスの夢...うん、見てた。まじ?マジで!

首を傾げてニコッと笑ったままヤスが私を見てる。口を開けたまま固まる私。

『おい。なんか言えや』

...悪魔が登場した!

「...なんか言えって言われても...なんて言えばいいんだろう、」
『好き!とか、大好き!とか、愛してる!とか?』
「......認めさせる気しかないんだね、」
『当たり前や。俺は愛してるもん』
「...........。」

...騙されてる?...本気?
いや、そんなわけない。でも...
だってさっきまでからかわれてたから、わかんない。
今のヤスは、笑ってないから天使じゃない。でも、悪魔の顔もしてない。
真剣な、男の顔。

「...好き、」
『...奇遇やな』
「そ、だね...」

私が座るベッドに手をついて片膝だけ乗り上げたヤスは、また天使の微笑みを浮かべ、顔を近付ける。思わず構えた私を見て、ふっと息を零して笑い、唇が触れた。

『唇、めっちゃ熱いな。...なんかエロイ』

さっきからヤスがコロコロ変わってドキドキする。ニコニコしてるけど、笑顔が黒い!でも、なんか、...幸せ。

『しゃあないから今日は勘弁したるわ。寝とき』
「しゃあないって、」
『寝ないん?なら、』
「寝ます!」

急いで布団に入ってバクバクする心臓を落ち着けようと口元まで布団を被る。するとすぐにヤスが布団を捲った。

『添い寝したる』
「だ、だいじょうぶ!」
『...俺がしたいからええの』

そう言って布団に入って来てヤスが私を抱き締めた。少し赤くなったヤスの耳を見て、私まで再び顔に熱が集まる。熱が上がってしまいそうなこの状況が幸せすぎて、ヤスの腕の中で密かに笑みが浮かんだ。


End.

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