悪魔が天使に
ミラクル!
席替えしたら、隣になった!
しかも窓際一番後ろ!
「...........。」
『......眠、』
席について早速寝たんですけど。嬉しいの、私だけ?
せっかく想いが通じ合ったと思ったのに、やっぱり冷たい。いや、変わらないだけなんだけど。前と同じ。なんにも変わらない。
でもたまに、本当に私のこと好きなのかな、と思ったりもする。
『...安田くん?寝てるのにごめんね』
『...ん、...ええよ、何?』
『英語のノート集めてるんだけど、』
『あー、待って。...はい、お願いします』
『あ、う、うん。ありがとう』
...私に対する態度とこんなに違うのはなぜ?もー!バカバカ!今、あの子、天使のヤス見て確実にキュンってしちゃってたよ!私にはわかる。
『...何』
「...え!なに、?」
『何ずっと見てんねん』
「...何でもないし、」
『ふーん』
なにこれ!釣った魚に餌やらない感じ?最近ツンばっかりで、全然デレが見当たらない。
ドSなのはわかってたけど、さすがにちょっと寂しくなる。
『...あ、#name1#、購買行こ』
「うん、」
ヤスの後を追って歩き出すと、少し振り返って私がいるか確認したヤスは、また前を向いた。
手を繋いで私達の前を歩くカップルを見て、手、繋ぎたいな、とか思ってみる。無理だけど。今までまともに手を繋いだことなんてない。
じっとヤスの背中を見つめていると、ヤスが振り返った。
『...背中に殺気感じんねんけど。ナイフでも持ってるん?』
「...持ってるわけないし」
『...それやったら、こっち来て』
自分の隣を指差した。もー、こういうところが好き。でも、デレまで行きつかないこのもどかしさ。
ヤスの隣りに並ぶけど、こっちは見ない。いつものこと。...でも、ちょっと嬉しい。
『今日、#name1#んち寄ってく』
「あ、うん、」
『嫌なら帰るで』
「いやいやいや、嫌じゃない!」
『...どっちやねん』
ヤスがちょっとだけ笑った。なんかホッコリした!やっぱり好き。いくら素っ気なくても、こんな瞬間はたまらなく嬉しい。
教室に戻る途中、廊下の角を曲った所でヤスが、わっ!と言った。
目の前には同じクラスの鈴木さんが尻餅をついていた。
『ごめんな、大丈夫やった?』
「あ、うん、私こそごめんね、」
『俺は大丈夫やで。足、痛い?』
「あ、ちょっと...でも大丈夫、」
『あかんよ。保健室、行こ。な?』
ヤスは私に、先戻っといて、と言うと足を引き摺る鈴木さんに肩を貸し、保健室へ向かった。
そんな二人の後姿を見て、胸の中にモヤモヤした何かが膨らんで、胸がぎゅっと締め付けられた。
二人は授業開始のチャイムと共に戻って来て、ヤスは何も言わずに私の隣の席に座った。
4限の授業が始まる前、鈴木さんがヤスに話し掛けていた。
...気になる。ものすごーく、気になる。
...けど聞けない。
『昼休み屋上に呼ばれた』
鈴木さんに手を振って背中を見送ったヤスが、まだ聞いてもいないのにすんなり報告してくれた。
知りたかったけど、知りたくなかったような内容だ。
「...告白、だったりして、」
『そうかぁ?』
「...行くの、?」
『うん。違う話かもしれんやん。...何、心配なん?』
「...ち、ちがう、」
『ほんま素直やないなぁ』
「...どうせ、素直じゃないもん、」
『鈴木さん素直そうやし、そういうとこは#name1#より可愛いかもなぁ』
...あ、今のはグサッときた。
他の子と比べるなんて、そりゃないよ。しかもさっきあんなに優しくしてるところを私に見せておいて。
...ダメージおっきい。
「......そうだよね、...なら、付き合っちゃえばいいじゃん!」
『...なんやそれ。本気で言うてんの?』
「...バカ、...ムカつく、...ヤス、嫌い、」
声のトーンを落として言ったヤスが、私の言葉に溜息をついた。
チャイムが鳴ったけれど、ヤスはそのまま教室を出て行ってしまった。
昼休みが始まってもヤスは戻って来なくて、心配過ぎて居ても立っても居られなくなった。
勝手に屋上へと足が動いていた。
ゆっくりと音を立てないように扉を開け、その隙間から外を覗くと二人の姿が見えた。会話が微かに聞こえる。
「...優しいとことかね、ずっと好きだったの、...付き合ってくれない、?」
『...ごめんな。付き合われへんわ』
「...そっか、...あの...好きで居たら、ダメかな、」
『ん、ごめん。...俺、好きな子、ていうか、彼女居んねん』
「...え、誰...、彼女、居たんだ、?」
『#name1#』
「...え、だって、...」
『見えへんやろ?』
「......ん、」
『さっき優しい言うてくれたけどな、俺、好きやない子には優しく出来んねん』
「..........、」
『好きな子いじめるタイプ。俺、子供みたいやろ?』
笑いながらそう言ったヤスを見ていたら、その後の会話は何も耳に入って来なかった。ドクンドクンと音を立てる胸を押さえていると、扉が開いた。
『...何してるん、こんなとこで』
黙っていると、ヤスが私の頭にポンと手を置いてから階段を降りた。
先に出てきたのがヤスでよかった。
ヤスの後ろから数メートル離れて教室まで戻った。
教室に入ると同時に先生が来て、話も出来ないまま席についた。
授業が始まってすぐに、ヤスが顔を寄せて小さな声で私に言った。
『...教科書見して』
「...うん、」
机を合わせたのに、教科書なんか全然見ていないヤスが、前を向いたままぼーっとしている。
そんなヤスを見ていたら、廊下側の席の鈴木さんがこっちを見ていたから慌てて目を逸らした。
急にペンケースを漁ってペンを出したヤスが、私のノートを引っ張って端っこに何か書いていた。
“ いつまでヤスって呼ぶつもり? ”
返ってきたノートの文字を見て、驚いてヤスを見るけれど、さっきと同じ様になんてこと無い顔をして前を向いたままだ。
“ なんて呼んだらいいの? ”
“ 普通名前で呼ぶやろ ”
“ じゃあ、章大 ”
すると私の方を向いて頬杖を付いたヤスが、...じゃなくて、章大が。笑っていた。天使みたいな優しい顔。
...と思ったら、いきなり目の前に章大の顔が近付いて、キスをした。
目は合っていないけれど、視界に入った鈴木さんがこっちを見ている気がした。だからもうそっちを見れなかった。
...ごめんね、鈴木さん。私も、好きなの。
章大は何事もなかったかのように、平然と前を向いた。
授業が終わっても座ったままのヤスに、珍しく私から声を掛けた。
「...帰ろ、」
『ん』
外に出て歩き出してから、ヤスの背中に言った。
「...ヤス、さっきは、ごめ...」
『章大。って呼んだら、手、繋ぐんやけどなぁ』
被せ気味に言った章大が、私をじっと見て待っている。
「...章大、」
ふふっと声を出して笑った章大が、私の所に来て強引に手を取って引っ張る。引き摺られるように歩きながら、章大が言った。
『#name1#』
「なーに、...しょ、うた、」
『やっとカレカノっぽい』
「...そ、そうだね、」
『いつ呼ばれるんかなーって、ずーっと、待ってたんやけどなぁー』
珍しく拗ねたように言うから章大を見たら、強い口調のわりに顔を紅く染めていた。
嬉しくて笑ったら、私を睨んだ。
『言うとくけど!俺、ほんまに素直やない女は嫌いやねん』
「...うん、」
『...けど、好きや。#name1#なら、素直やなくても、好き』
End.
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