euphoria


幸せの証


『そんな重いもん俺運んどいたるよ!』
『...え、でも、』
『ええから!』

またやってる。優しいのは自慢だ。
けれど、同じクラスにいると、それがあまりに目に付く。

『あー!髪切ってるー!可愛いやん!似合ってんで!』
『なんか雰囲気変わったなぁ。メイク変えた?』
『お礼って!そんなんいらんのにー。...でもありがとう、』

昼休みだというのにあっちに呼ばれこっちに呼ばれ、自分から飛び込んだり、本当に忙しい人。
一人でパンをかじりながら、隆平が受け取っているハートのラッピングの中身がクッキーかケーキか、とか余計な予想をして溜息を落とした。

ちょっと大きめの残りのパンを口に押し込んで教室を出る。
隆平は悪いことをしているわけでない。寧ろ良いことをしているはずなのに、そんな行動にイライラしてしまう自分は本当に小さな人間だと思う。

屋上の扉を開けて外に出ると、空の青はどこにも見当たらなくて、気分転換にもならず余計にイライラした。踵を返して屋上を出て階段を下りると、廊下の向こうにキョロキョロと周りを見回し、窓から顔を出したりしている隆平が目に入った。

多分私を探しているはず。
けれど背を向け、再び階段を上がった。後ろから足音が聞こえたから、階段を上がるスピードを少し早めた。
屋上へ出て扉を閉めると、扉に全体重を掛け押さえた。

『え、あれ、』

焦ったような声が聞こえたから、笑ってドアから離れてフェンスの方へ逃げた。息を潜めて隠れていると、居った、と後ろで声がする。

『なんで逃げたん?俺なんかした?』
「してないよ」
『ならなんで?』
「ただ、あまりに親切でモテてる人がいたから、邪魔しちゃ悪いと思って」
『え?俺?』

自覚なしか。そうだよね、隆平だもん。そんなこと思ってない。

『モテてないやん。なんで?』
「みんなに優しくしちゃってー、可愛いとか言っちゃってー、プレゼントとか貰っちゃって?」
『...貰てへんよ、...あれは返した、手作りやったし、』

...そういうとこはちゃんと考えてくれてるんだ。...よかった。

「あんなんだと、誰が彼女かわかんないよ?」
『...#name1#って素直やないなぁ』

隆平が笑っていた。私は至って真面目なのに。
確かに素直じゃないし可愛くないと思う。ほかの子に優しくしないで、なんてストレートな言い方、死んでも出来ない。

『...俺、優しいんや?』
「...何、今更...」
『や、それやったら#name1#のせいや。絶対』
「...え?なにそれ」

隆平が私を見て顔をほんのり赤く染めていた。意味わかんない。何その顔。どういうこと。

『人はな、自分が満たされてて幸せな程、周りに目がいくし、優しくなれるんやで』

隆平が照れたように笑いながら、私をちらりと見て視線を逸らした。

『...めっちゃ幸せやもん、俺』

今度は私が赤くなる。それを見て隆平が私を指差して笑ったから、拗ねたように唇を尖らせた。その唇目掛けて隆平のそれが近付いて来たから手を出して止めた。

「...これ以上みんなに優しくされたら困るから、しなーい」
『...それはナシやろ...ほんま素直やない、』
「...隆平が甘やかすからだよ」
『...しゃあないやん。...そんなとこも好きやねんもん、』

伺うように唇を近付けた隆平が、私が拒まないことを確認して今度は唇が触れ合った。
今ならわかる気がする。隆平が言ったこと。
抱き寄せられて、唇を合わせ、次第に穏やかになって行く心は、幸せの証。


End.

- 1 -

*前次#


ページ: