これが恋なんて認めない
屋上
はよ来い
10秒で来い
...あ、ジュース買うて20秒でええわ
立て続けにマルにメッセージを送信して屋上の扉を開けた。盛大な溜息をついて屋上のど真ん中に寝転がれば、背中のコンクリートがジリジリと肌を焼くように熱いから飛び起きる。見上げれば青空の中心に太陽がいるからすぐに端の日陰へ移動した。
10秒経ったのに返信すらない。
...暑いやんけ。はよしろや。
コンクリートをぼんやり見ていると、徐々に陽射しが俺から日陰を奪っていくから、モワリとした熱気に耐え切れず早々に屋上を後にした。
階段を降りていると携帯が震えてメッセージを受信した。
“もう少ししたらマルと行くな♡”
相手はメッセージを送ったマルではなくヤスだった。20秒と言ったのにこの上なく呑気なメッセージに、ハートが飛んだ可愛らしいスタンプまで押されていたから返信せずにそっと閉じる。
屋上へ続く階段の手前の空いている教室に入り、窓を開けて机の上に上げられた椅子を下ろして座る。ここなら言わなくても気付くだろう。
手摺りに顎を乗せて、校庭で体育の授業中のクラスメイト達を見下ろした。
その中に、ついあいつの姿を探してしまう。
先に目が止まったのはヒナだった。クラスメイトはサッカーの試合中だと言うのに珍しく目もくれず、胡座をかいて座るヒナ。...その隣に膝を抱えて座る、あいつ。
おいおい、女子は反対側でバレーしとるんちゃうんか。なんでお前はそっち行ってそこ座っとんねん。
自分の苛立ちに気付いて逃げるように目を逸らすと、授業中だと言うのに廊下でバカ笑いしながら歩いて来る声が聞こえてきた。
『あ、渋やんおったぁ』
すぐに扉が開いて教室に入って来たヤスとマルに顔だけを向ける。するとマルが『遅くなりましたー』と、笑いながら俺にコーラを差し出した。
『15分69秒遅れたからこれ、奢りな』
『えー待って!俺今月ピンチやねん!』
『それってほんまは16分9秒やで』
『どうでもええわ』
頭を抱えるマルとふわふわと笑うヤスを横目に、キャップを開けて一気にコーラを喉に流し込む。ふと校庭に目を向けると、#name1#はもうヒナの隣には居なかった。それでもじわりと腹の奥を刺激する苛立ちは治まらない。
なんで俺がこんな気持ちならなあかんねん。なんなん。なんやねん。くっそ、腹立つわぁ。
苛立ちの理由には、ずっと気付かない振りをしてきた。それでももう認めざるを得ないところまで来ている。
『物色中ですか!』
『...はぁ?』
『あ、信ちゃん居るやん』
『可愛い子居る?』
視線の先のあいつからサッと目を逸らした。体操服の太腿がどうのこうの言っているマルを余所に、ヤスが俺の隣で窓から身を乗り出した。
『#name1#ちゃんこっち見てるやん』
その言葉にドキリとした。横であいつに手を振るヤスに、大きく手を振り返すあいつ。隣に俺が居ることに気付いているだろうか。
『あ、渋やんの幼馴染の?』
『そう、#name1#ちゃん!』
『...おい、アピールすなよ。サボってんのバレるやろ』
“幼馴染み”という響きが照れ臭くて話を少し逸らしてみる。手を振るのを止めたヤスは顔を引っ込めて窓の手摺に背を預け、マルは俺の隣に腰を下ろした。
『ええなぁー。幼馴染み美人さんやん』
逸らしたはずの話をまたマルに持ち出されて、何も言わずにコーラに口を付ける。
『なぁなぁ、窓から行ったり来たりとかしちゃったりなんかしたことないの?』
目を輝かせるマルに、照れ隠しに冷ややかな視線を向けると、ヤスが隣でふふ、と笑っていた。
『あるわけないやろ。向かいの家やからな』
『わー!そっちかぁー!』
『あは、残念やったなぁ』
大袈裟に項垂れるマルは隣の家の幼馴染みというシチュエーションの妄想を語り出す。
『なんかさぁ、偶然部屋ん中見えちゃったりとかしてさぁ、それが下着姿とかやったりしてさぁー!もー!』
それが、数年前に俺がしていた妄想と全く同じだったから思わず笑うと、調子に乗ったマルがますます興奮気味に話し出す。
『もう子供の頃とはちゃうで。...みたいにキスとかしてもうたりしてー!』
『漫画読み過ぎやろ』
そのテンションの高さに隣のヤスが笑いながら突っ込む。それにいまいち笑えずに外に目を向けた俺の足をマルが指で啄く。
『あるやろ?正直』
『...何がやねん』
『キスくらいしたことあんねやろ?あの子と♡』
スケベ丸出しの顔を俺に寄せるマルを横目に見て、またあいつを見遣った。
『ある』
大袈裟なリアクションで口を塞ぎ何故か顔を真っ赤にしたマルと、手を合わせて乙女な反応をしたヤス。
実際はそんな反応をされるようなキスではなかった。俺が一方的にしたキスなのだから。
ずっと、恥ずかしいと思っていた。幼馴染みを好きになるなんて、恥ずかしい。だからずっと気付かない振りをしていた。臆病な自分を認めたくなかったんだ。
...いや、まだ認めてない。恋だなんて、悔しいから認めない。
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