ブルーな心はサイダー風味
『...キス、したいなぁ...』
夏の午後。授業中。屋上にはふたりきり。
隣に座る男が物憂げにぼんやりと空を眺めながら呟いた。
このシチュエーション...夏っぽい。青春っぽい。でも、なんか雰囲気的にはマズイ気しかしない。
『...なぁ』
コンクリートについていた手に、熱い掌が重なった。ちらりと横を見れば、思いの外近い距離までその唇が迫っている。囁くような声は生温い風に流されて消えた。
『...キス、していい?』
『いいわけないやろアホか』
すぐそこまで迫っていたマルから少し距離をとって冷たい視線を送る。重ねられていた手を引き抜くと手の甲がマルの手汗でじっとりと湿っていたから、溜息をついてサイダーを口に含んだ。
するといきなり正面から両方の肩を掴んで揺すられたから思わず持っていたペットボトルを落とした。シュワっと音を立ててコンクリートに染みが出来る。
『...んもー、なにすんねん...』
ペットボトルに手を伸ばそうとしたけれど、もう一度肩を揺すられてマルを睨むように見た。
『章ちゃん』
『お前のせいで全部溢れたやんけ』
『...なぁ章ちゃん』
『後で買って返せよほんまに...』
『...章ちゃん...!』
ガバッと俺を抱き締めるマルからは、男臭い汗の匂い。お互いの肌がベタつく。あぁもうなんか本当にマズイ。
『...ちょ、もう離して?暑苦しい...』
マルの奇行はいつものこと。でもきっと、さっき渋やんのキスの話を聞いたから。
わかるで。めっちゃわかる。だって素直に、めっっちゃ羨ましかったもん。
頭にあいつの顔を思い浮かべて溜息を吐いた。
無理矢理丸を押し退ければ、眉を下げてシュンとして、フラれたみたいな顔をして俺を見つめるからほんまにめんどい。
『...なんでモテへんのやろ...』
この世の終わりみたいな顔をしたマルを横目で見てから空を見上げた。
...俺だってしたい。キス。あいつと、したい。けど、告白する可能性というものを考えてみたけれど、限りなく0に近い。『どうせ無理やろ』が半分。もう半分は『怖い』。マルにも言わないけど。
夏はもうとっくに来ているというのに、せっかく夏なのに、あいつを好きになったばっかりに今年の夏は憂鬱でたまらない。
盛大な溜息をついて後ろのコンクリートへ倒れ込み空と向かい合う。眩しいくらいの青は、何だか俺の心を焦らせる。諦めているはずなのに、焦る。
俺の目の前に突然顔を出したマルが、俺に覆い被さるように体を跨いだ。そして俺を見つめているから怪訝な顔を向けた。
『どけ』
俺の声なんか届いていないみたいにじっと俺を見つめるその瞳は、何だかもう何周か回って逆に純粋に見えてくる。
『...章ちゃんならいけるかも』
『...はぁ?』
『章ちゃんなら出来そう。キス』
『...もー...何言うとんね、っ』
...キス、された。かろうじてファーストキスではないものの、気持ちのいいものではなかった。...だってマルやし。
『...サイダーの味♡』
『アホか!』
俺達の夏は、恋愛より友情...かもしれない。
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