euphoria


Seven days later


cf.『Seventh Heaven』
 『The other side of
      Seventh Heaven』
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0時を回って声を合わせたおめでとうコールの中、一番章大に近くなったはずの私は、一番遠くの席から主役の章大を見ていた。

改めて乾杯したけれど、章大とグラスをぶつけられる距離にすらいない私に章大がヒラヒラと手を振る。けれどそれは私だけではなく、グラスをぶつけることが出来なかった友人達と同じ扱い。さっき0時になってすぐにこっそりと送った一番乗りの“おめでとう”のメッセージにも、きっと章大はまだ気付いていない。

章大の両隣は女の子が固めていて、それが私の友人とは言え少しモヤモヤしてしまう。自分のものではなかった頃はあまり気にならなかったボディータッチも、今は目を背けたくなってしまう。
今になって、昨日章大と決めたことを少しだけ後悔していた。



『どうする?言うてまう?』
「...............、」
『俺は言うてもええけどなぁ』
「...言わなくていいよ」
『そ?なんで?』
「...............、」
『...まぁな、あいつがな...』
「『 ...大輔 」』
『あは。口の軽さは若干心配やもんな。ええ奴やねんけど!』

2人で決めたことなのに。
けど仕方ない。どこから話が漏れるかなんてわからない。そうなって章大と離れることになるくらいなら、誰にも言わずにずっと二人でいたい。
でも章大に理由は言えなかった。別れることを心配してるなんて、格好悪くて言えない。


盗み見ていた章大から視線を逸らすと、私の向かいに座る忠義が私を見ていて、目が合うとにこりと笑った。その不自然な笑顔に怪訝な目を向けると、忠義が立ち上がりぐるりと向こうを回って隣に座っていた友人を追いやり、そこに腰掛ける。

『おめでとぉ』
「......誕生日は章大だよ」

言葉の意味を理解したけれど、照れ臭くてありがとう、なんて言えなかった。忠義は含み笑いしながら顔を近付け、小声で言った。

『俺さぁ、ずっと謝りたかったんやけど』
「え?」
『あん時空気読まんと電話してもうてさぁ、ごめんな?』

...絶句した。謝りたいと言う割に全然悪いと思っている様子のないその笑顔をただ絶句して見ていた。

『だからな、全部聞いてもうた』

忠義が私達のことを全部知っているという恥ずかしさよりも、確認出来ずにいたあの時の電話の相手が忠義だったことへの安堵が勝っていた。
思わず口元を手で覆った私を見て、忠義がふふっ、と笑い声を漏らす。

『ついでに言うとな、...ヤス、次の日な、』

忠義の目が私から上へと逸れると同時に、肩を掴まれたから驚いた。覗き込むようにして私の前に現れた章大の目が忠義へと移ると、目を細めて忠義を見つめる。

『嫌な予感しかせぇへんのやけど。...何の話ぃ?』

忠義が章大に誤魔化すように笑顔を向けて席を立つと、章大が入れ替わりで隣の席に腰を下ろし首を傾けて私のグラスを指差す。

『飲んでる?減ってないで』
「...うん、飲んでる」
『俺もうちょっとやばい!回ってきたかも』

一言だけ話したところで、章大の視線は向かい側へ移動した。おめでとう、にありがとう、を返してそのまま話し込んでしまったから、何だかまた置いてけぼり。章大を横目で見てグラスを掴み、カクテルを流し込む。
あちら側へ戻った忠義に目を向ければ目が合って、口をパクパクさせて私に何か言っているみたい。多分『あ・と・で・な』。

頷く間もなくテーブルの下で手を取られたからピクリと体が揺れる。下を見遣れば章大の指が私の指に絡んでいるからちらりと章大に目を向けた。けれど、章大がこちらを向くことはなかった。

それなのに、ごく自然に椅子を動かして少し距離を縮めたり、時折気を引くように指を弄んだりするからたまらない。お互いに別の相手と話してはいるけれど、ずっと繋がれたままの指先にドキドキせずにはいられない。もう想いは通じたのに、胸が苦しくなるくらい想いが膨らんでいく。

暫らくすると急にくるりとこちらを向いた章大が顔を寄せるからドキリとした。驚いた私に含み笑いして耳元に唇を寄せ囁く。

『トイレ』

ぎゅっと力を込めてからするりと指が離れて章大が立ち上がる。それを見送ってグラスを手に取れば、バッグの中のスマホの振動が伝わってきたからグラスを置いてバッグを漁った。

“ ありがとー♡一番乗り♡ ”

その返信に思わず笑みを零すと同時に肩に重みが伸し掛かったからドキリとしてスマホを胸に当て画面を隠した。

『なにしてんの』
「...別に」

大輔が私の肩に腕を回し覗き込むように見るから顔を背ける。

『あー、あれだろ?』
「...何」
『前に言ってた、好きな男』

...これだからこの人は怖い。

「...ちがうよ」
『ふーん』

口の端を上げて疑うようにますます顔を近付けるから、やんわりと肩の手を退かして距離を取り、大輔の方に体を向けて座り直した。

「覗き見はだめだよ」
『彼氏出来ただろ』
「...なんで?」
『知ってんだけど』

ドキリとした。知ってるはずがないと思いながらも不安は募る。

「何を?なんも思い当たることないけど」
『耳貸してみ』

動揺を隠して、呆れたように見せながら大輔に耳を傾けた。

『嘘』

聞こえてきた言葉に安堵しながら立ち上がった大輔に睨むように視線を向けると、ガタリと後ろで音がした。

『お前女の子にあんまベタベタ触ってたら彼女に怒られるで』

同時に肩に重みが掛かって後ろから私の肩に顎を乗せた章大が大輔に言った。

『お前だってしてんじゃん』
『俺はええの。フリーやから』
『アイドルのくせに』

呆れたように笑って背を向けた大輔を見送ると、章大が耳元でふふ、と笑った。顔は見えないけれど、普段より更に間延びした喋り方をしているから大分酔っているのかもしれない。

「...まずくない?」
『...なぁ』
「...何、」
『今お腹に手ぇ回したら怒る?』

思ったよりもはっきりとした口調で、小さな声で章大が言った。酔っているのかと思っていたから驚いた。

「...怒、らないけど、ダメでしょ...」
『...じゃあかえろ、かえりたい』
「でもほら、主役だし、ね...」

黙ってしまった章大が少しの間の後、はぁーっと盛大な溜息を零して私の肩から離れて言った。若干不機嫌そうに唇を尖らせた章大の横に腕をくっつけて座り直すと、章大がくるりと私の方を見た。

『...だってさぁ、もうずーっと他の奴見てるし、めっちゃ触られてるしさーぁー』

思いの外ボリュームの大きなその声に思わず周りを見回したけれど、ガヤガヤと騒がしい周りの声にかき消されて誰も私達を気にはしてはいない。

『...俺のやのに』

最後にボソリと呟かれた言葉で章大に目を向ければ、俯いてわざと大袈裟に拗ねたように見せる。
こんな子供っぽい章大、知らなかった。

『...はよキスしたい』

漏れている心の声が照れ臭くて、顔が次第に熱くなり唇を噛み締める。
...私だって、早くキスしたい。早く帰りたい。2人だけで、誕生日を祝いたい。

「...今日、私ん家がいい」

私に目を向けた章大がじっと私を見るから、何だか恥ずかしくなって目を逸らした。

「...プレゼント、置いて来ちゃった」
『さっき貰たで』
「...あれはみんなからだもん」

ちらりと章大を見遣ると、その口角がひくりと上がって笑顔が浮かんだ。その口元を隠すようにグラスを取って口を付けた章大が、中のアルコールを飲み干して呟いた。

『...じゃ、あと30分だけ、我慢しよかな』

...あと30分が長過ぎる。ちらりと章大を見れば私の心を見透かしたみたいに笑った。宥めるように触れた手が下で繋がれて、私に向けられた共犯者の笑顔が甘く胸を締め付けた。


Happy birthday!!  2016.9.11

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