euphoria


Uncertain Love


Imitation Love
 11.空気みたいな呟き
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今日、彼女と別れた。
と言うか、フラれた。

『私と#name2#さん、どっちが大事?』
「...どっちも」
『そうかな...章大くんは#name2#さんの方が大事なんだと思う、』
「...やから両方。彼女はお前だけやし、#name1#は幼馴染みやから大事やねんて」
『章大くんは、きっと#name2#さんのことが好きなんだよ、』
「んもー...違う言うてるやん、」

ごめんね、さよなら。と去って行った元、彼女の背中を睨むように見つめた。

「そんなん言うならなんで最初に“どっちが大事?”とか聞くねん!腹立つわぁ!」

苛々が止まらない。
どいつもこいつも#name1#のことばかり気にして、本当に俺を見ているのかと思う。

教室に戻ると友達にカラオケに誘われた。けれど、友達と一緒にいた甘ったるい香水の匂いをさせたケバい女が俺に手を振ってきたから、断った。
今は女と遊ぶ気分じゃない。
こんな些細なことにも苛立ちが募る。
バッグを持って教室を後にする。
早く一人になりたい。

足早に校門を出て前を見ると、少し先に見慣れた後ろ姿があった。
早く一人になりたいと思っていたのに、気が付けば走って隣りに並ぼうとしていた。

「#name1#!」
『あ、章ちゃん。あれ?今日は彼女と帰らないんだ?』
「...別れたしー」
『またぁ?』

#name1#の言葉にムッとして横目で見る。それを見て笑った#name1#の肩に軽くパンチした。

「俺からちゃうし」
『フラれたの?』
「そ。」
『章ちゃんみたいな人、なかなかいないと思うけどなぁ』
「は?それどういう意味やねん」
『褒めてんの!章ちゃんって、優しいし気が利くしいつも笑顔だし、悪いとこあんまり思い付かないのになぁって 』

こんな風に直接的に褒められたのは初めてで、少しだけ戸惑った。そんな俺を余所に、#name1#が言った。

『私だったら、章ちゃんみたいな人見つけて結婚したいなぁ』

物凄く変な感じがした。
胸の奥がぞわぞわと疼くような変な感覚に違和感を覚え、その違和感の正体を探ろうとしたけれど、何となくそれを知ってしまうのが怖い気がした。

『あ、照れてる?』
「...照れてへんわ」
『ふふっ。でも、ホントだよ』
「...あーあ!しばらく彼女はいらーん!」
『私もいらーん』
「え、彼氏は?」
『別れた』
「人のこと言うてる場合ちゃうやん」

二人で笑った。俺はというと、すっかり苛々なんて無くなっていて、むしろ機嫌が良いくらいだ。


隣同士の家に二人で帰って、自分の家に入る。制服を着替えて、当たり前のように#name1#の家に上がりこんだ。
いつも何をするわけでもなく、暇だと二人で居たりする。親達だって何も言わないし、俺達もなんとも思わない。だってそれが普通だから。





「あ、ごめん」
『あー見たー』
「ん、見た」
『ノックしてよー!』
「ん、今度からする」

ドアを開けたら、上を着てるところで、ブラが一瞬だけ見えた。
多少なりともドキッとはした。でも#name1#にムラムラするほどではない。...多分。

そのまま部屋に入って#name1#のベッドに転がった。ベッドにあった雑誌を何を見るわけでもなくただ捲る。
俺の横に寄ってきて、ベッドに上半身だけ乗せた#name1#が雑誌を指差す。

『こっちの服とこっちの服、どっちがいい?』
「俺断然こっちやなぁ。#name1#似合いそ」
『本当ー?迷ってて絶対章ちゃんに相談してからにしようと思って』
「あ、ほんなら今度買い物行かん?最近行ってへんやん」
『行く。土曜日行こうよ』

ベッドから#name1#が立ち上がった瞬間に香った匂いに、懐かしいような、何とも言えない気持ちになって#name1#に目を向ける。
香水なんか付けている様子はないし、つけるタイプでもない。

『章ちゃん、どうしたの?』

俺の視線に気付いたのか俺を見て首を傾げた。立ち上がって#name1#の前で止まった。

「ちょっとごめんな」

言ってすぐに抱き締めた。正確に言えば、抱き締めたというより、引き寄せて首筋に顔を埋めた。

『ちょっ、章ちゃん!何してんの!』
「ちょっと待って」

愛しくて抱き締めたわけではない。
ただその香りを辿っただけ。
あ、やっぱり#name1#の匂いなんやーと思ったと同時に、#name1#に肩を押され体が離れた。と思ったら、俺の左頬に#name1#の平手が飛んで来た。

「...痛ったっ!なにすんねん!」

頬を押さえて#name1#を見ると、#name1#は仁王立ちで俺を睨んだ。

『そういうことするなら部屋入れないよ!』
「はぁ?ちゃうし!アレやん!ちっさい時してたんと同じやろ!」
『今いくつ!』
「.......17」
『もう子供じゃないからダメ!』
「......そういうんちゃうって、」
『え?』
「好きとか、やらしい気持ちとかでしたんちゃうからっ!」
『...なら、いいけど、』
「...ごめん、急に、」
『...うん。私こそごめんね』
「...ほんまやで、」
『はあ?』

未だ痛みが引かない頬を押さえて笑う俺に、#name1#が冷却シートを渡した。手を離すとくっきりと手形が付いていて、#name1#が笑いを堪えながら俺を見ていた。

ほら、また。やっぱり変だ。
胸の奥がまた変な感覚に支配される。
不快かというとそうではないけれど、知りたいような、知りたくないようなこのモヤモヤが、俺の中で徐々に膨れ上がっていく。

いつの間にか消えていた苛々の代わりに現れたそいつの正体を知るのは、まだまだ先の話。


End.

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