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……………

最近のサリーは食事さえまともに取っていない、自分でも生きているのか死んでいるのかわからない状態だった。

何もしたくない。

何かを始めようとする気力さえ起きてくれない。

大学もここ何日休んだか…

これ以上休んでしまうと単位が貰えず、卒業も出来ないかもしれない。

危機感はあるのに、いつまでも付いて回る絶望感で動く事さえ苦痛。


ピロロロ!

「……ッ」


生きる希望をなくして悲しみに打ちひしがれている彼女の視線を動かしたのは、テーブルに置いてある携帯電話だった。

最近は全く鳴りもしなかったのに…誰だろう。

その携帯電話のおかげでようやく起き上がる事が出来、番号を確認してみる。

全然知らない番号だ。

間違い電話だろうか。

とりあえず通話ボタンを押し、耳に当ててみた。


「もしもし?俺です」

「…ッ!」


電話の向こうからの声が聞こえた瞬間、彼女は目を大きく見開く。


「アンタ…なんで…!?」

「すみません。ビクトリアに携帯番号を聞いちゃいました」


今にも笑顔が見えそうな程のリチャードの優しい声だった。

あんな酷い事を言ったのに、どうしてまだ私に構うの…?

言葉が出てこない彼女に、再び彼の笑い声が聞こえた。


「しつこい奴だと思ってますか?」

「お…思ってない!」


思わず出た本音。


「ははっ。そうですか、なら良かった」

「……っ…」


安心したリチャードの声が傷ついた私の胸に浸透していくみたいで。

乾ききって干からびた心が、潤って柔らかくなる感覚がした。


「この間はすみませんでした。ちょっと調子に乗ってたみたいだったから…僕」

「それは…」

「貴方がどんな思いで生きてきたか…僕は何もわかっていません。貴方の言う通り、今まで何の苦労もなく、貴方とは全く違う幸せな生き方をしてきたのは確かなんですから」

「………。」

「でも…貴方を支えてあげたいって思うのも確かなんです。今まで通り接してもらっても構いませんし、仲良くしてくださいなんて言いません。
ただ苦しくなったら…泣きたくても胸を貸してくれる人がいなかったら僕を頼って欲しいなって。それを伝えたくて電話しました」


嫌われて当然だと思っていたから…

あんな事言われておいて、また笑顔で話しかけてくるなんて思っていなかった。

なんて馬鹿な男なの。

一粒の涙が頬を伝う。


「僕は貴方を裏切りません。絶対に裏切らない自信があります!だからこんな状況でも…貴方に電話出来たんですから」


こんな台詞…

もう絶対に信じられないと思っていたばかりなのに。


「……めんッ…」

「…え?」

彼女の掠れるような小さい声に、咄嗟に訊き返すと…


「ごめん…!」


今度はハッキリと聞こえた、泣いて声を枯らしながら言った一言。


「サリー…さん」


ツーツー…

既に切れている証拠の電子音。

サリーさんの意味深な「ごめん」の一言は…

「もう電話をかけてこないで」のごめんか「今まで悪かった」のごめんかよくわからなかったけど、僕にはどちらでもないように聞こえた。


彼はそのままそっと携帯電話を閉じ、自分のベッドに寝転がった。


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