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一同がやってきたのは、室内から出てすぐ傍にある中庭。
「おいリッキー。重いよ。暑いし苦しい…」
「我慢してください。いくら竹刀でも当たったら痛いですよ」
リッキーの実力を測る為、とりあえずの相手として剣道用防具を身につけたジムは、彼から借りたもう一本の竹刀を握った。
慣れない格好からか、なんとなく足元が覚束ない。
しかし対するリッキーは防具も一切身につけず、持っているのは竹刀一本のみだ。
「お前はつけないのか?」
「俺ですか?別にいらないですよ」
爽やかに笑った彼。
余程自信があるのか、汗ひとつかいていない。
しかも竹刀を握っている姿が、めちゃくちゃ格好良くて腹が立つ。
クソ…ナメてるな、コイツ(怒)
「チャーリー!剣道のルールなんて知ってるの?」
そこで観客側のビッキーから心配そうな声が聞こえてきた。
「ジムだ!やった事はないけど多分大丈夫だ。メーンだろ?メーンって言えばいいんだろ?」
サラ「いや、言ってるだけじゃ負けるわよ」
そこでリッキーは竹刀を肩に乗せながら、面に隠れたジムの顔を見る。
「ルールはなしでいいですよ。ストーカーも来る時は無我夢中でしょうから、好きなように来てください。本気で来ないと意味がないですから」
肩から竹刀を離し、足を開いて構えの体勢に入った。
コイツ、年下の分際で…
まるで俺がお前に傷ひとつ付けられないみたいじゃないか。
しかし、これは良い機会だ。
いつもビッキーの前でお前ばかり良い格好させて…ここで一発先輩からの制裁を加えてやろう(悪い顔)
静まり返る中庭。
ジムとリッキーがお互い見つめ合う中、中心にナイジェルが立った。
「じゃ…リッキー、あんま無理すんなよ。
構え!」
お互いが戦う体勢に入り、辺りに緊張が走る。
試合前の静寂。
ナイジェルがふたりの顔を横目で確認し、
一気に手を振り下ろした。
「始め!」
ザッ!
その声で先に飛び出したのは、防具を身につけたジムの方だ。
「お前、年下の分際で調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
勢いだけで走り出し、全力で竹刀を振り下ろした。
女性陣は思わず目を瞑った
が…
バチーンッ!
ジムが振り下ろした竹刀は、跡が残る程強く地面に叩きつけられた。
「……っ!?」
「どこ狙ってるんですか?こっちですよ」
いつの間にか自分の真横にいたリッキー。
かわされたのか?あの一瞬で!?
「クッソ!」
「…ッ!」
ブオンッ!!
振り上げられた竹刀と同時に、リッキーは綺麗な身のこなしでかわす。
なんだ!?
コイツ、避けるのが異常に上手い…!
「チクショ…」
「闇雲に竹刀を振り回すだけじゃダメですからね!」
「何だと、このッ!」
ジムが何度リッキーに竹刀を当てようとしても全く命中しない。
横に振ったらしゃがみ込まれ、縦に振ったら身をかわされ…
それを数秒単位で、休む暇もなく。
俺の竹刀の動きが全て読まれている。
なんだ、コイツ…!
全く手加減なんてしてないのに!
「こんのッ…!」
「左…」
またかわされた!
何度も長い竹刀を振り回し続け、それと共に慣れない重い防具。
限界が来るのも時間はかからなかった。
体力が尽きて一瞬フラリと足がよろけた、その瞬間…
バチンッ!!
「………ッ」
頭に振動が伝わった。視界がグラグラする。
脳みそが揺れ動いているみたいで、体のバランスが取れない!
ズドン!とジムはあっけなく尻餅をついてしまった。
「………ッ」
あっという間すぎて、見ていた一同もぽかんとしてしまう。
あまりに一瞬の出来事だ。
「相手の隙を突いて一気に畳み掛ける攻め込み面。剣道では基本中の基本の技です」
先程の真剣な表情と素早い動きからは想像出来ない、穏やかな笑みを浮かべるリッキーの顔。
一時沈黙が辺りを包んだ後…
「キャァァァァァ!!!!リッキー凄い!格好良い!格好良すぎるよぉおお!」
彼の見事な竹刀捌きにビッキーは大興奮。
横からまるで猛獣のように飛びかかり、リッキーを押し潰した。
さっきの身のこなし能力を持つ彼ですら、彼女からの突進はかわす事が出来ないらしい。
解放されたリッキーは、座り込んでいるジムに手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
「あ…あぁ」
動揺しながら彼の右手を掴んだジム。
引っ張られて立ち上がり、ようやく自分が負けた事を再確認した。
信じられないという顔で、彼は面を脱ぎ始める。
「いやぁ、それにしてもビックリしたな。本気でいったのに掠りもしなかったよ」
「幼い頃からやってましたからね。どのように来るかなんて大体予想がつきますから」
「凄いわね、ビックリしたわ。プロに行けるんじゃないの?」
「プロなんて無理ですよ」
横から話しかけてきたサラに、照れながら頬を掻くリッキー。
ナイジェルやボビーもそんな彼に集まってくる。
「なんで隠してたんだよ?」
「別に隠してないですよ。言う機会がなかっただけです。
俺の父親もやっていて、小さい頃からバイクと一緒に教えられてたんですよ。
全く真逆のスポーツだからこそ、静と動を使い分けられるというか。
バイクの激しいスピード感とはまた違う緊張感があって、それが脳を良い意味で刺激するんです。
結局今はバイクを本業にしているのでこちらは趣味程度ですが。愛着湧いちゃって、寮にも竹刀を持って来ているんですよ」
「そうか。趣味でそこまでやれるなんて、お前本当に天才肌って奴なんだな」
「そんな事ないですよ。俺より上なんてたくさんいますから」
こんな時でも謙虚なのが彼の性格。
リッキーは慣れた手つきで竹刀を袋へと戻した。
何故かいつも可愛らしいリッキーが、今日はなんとなく男前に見える。
彼の初めて見る新しい一面に、ライバル心を抱いていたジムでさえ感心して大きく頷いた。
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