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……………
「よし、完了っと」
ハプニング連発のドタバタ洗濯がようやく終了。
ピーピー!と完了を知らせる機械音が鳴り、ジムは蓋を開けた。
うん。きちんと洗えているみたいだな。
まだかなり濡れているので、これを乾燥機にかけて綺麗に乾けばとりあえずおしまいだ。
「あれ?」
洗濯物をカゴに入れた所で何かに気がついた。
乾燥機に何か紙が貼ってある。
『乾燥機故障中。乾かす際は裏に物干し竿がありますので、そちらで乾かしてください。お手数おかけします』
「乾燥機故障?なんだよ、今日は電化製品壊れデーなのか!?」
達筆な文字で書いてある文章を読んで、思わず肩を落とした。
「あらら、こっちも壊れちゃってるんだね」
「仕方ない。裏に行ってみましょう」
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・
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裏口へ回ると、確かに長い物干し竿が数本。
日当たりの良い場所に並べられていた。
「本当にあるぞ。物干し竿」
「洗濯物はですね、乾燥機なんかより太陽の光で乾かした方がうんとフワフワして気持ち良いんですよ!天気も良いですし…さ!干しましょう!」
苦にならなそうなオトメンリッキー君が、洗濯物の入ったカゴを下ろして主婦みたいに衣類を干していく。
それを見てビッキーも「私はリッキーの隣がいい!」とテンション高めで、お気に入りのワンピースやスカートを干しだした。
「確かにリッキーの言う通り、お日様も出てるし外で乾かした方が正解かもな。よし、干すぞ!」
続いてジム、サラも。
シワをなるべく伸ばしながら、ハンガーや洗濯ばさみを使って各自作業を進める。
weather lifeのメンバーも大人達に教えてもらいながら不器用だが丁寧に衣類を干してゆく。
七音でさえ文句を言いながらも、きちんと手を動かしているようだ。
なんだかんだで、あの両親の件以来少しは変わったんだな。
「ん?何?ジロジロこっち見て」
「別に」
軽く笑ったサラを見て、白いシャツを広げながら美空は眉をひそめた。
「あ。ダメじゃないか、響介。干す前に何回か伸ばさないとシワになるだろ?」
「いいじゃないっすか、別に!どうせ後からアイロンかけるんでしょ?」
どこからか男達の声が聞こえ、全員が振り返った。
「乾かす時点で少しでもシワを伸ばしていた方が、アイロンをかける時に多少楽になるだろう」
「相変わらず雨宮さんは『こうした方が効率的だ』とか『あぁしたら損をする』とか…そーいうのばっかっすね!」
日晴と雨宮が何やら言い合いをしている。
珍しいな、そういう事もあるのか。
「おいおい、ケンカはやめろ」
隣にいたジムが即座に仲裁に入る。
「もっと人生楽しい生き方しましょうよ!あんまり頭が硬いと筋肉が強張って全身が石になっちゃうっすよ?」
「石になんてなるか!ただ僕は先の事をきちんと考えて行動しているだけだ。少なくとも響介のようなシワの一切ない脳みそはしていない」
「俺の脳みそがツルツルって!?俺の脳内見た事ないのに勝手な事言わないでくださいっす!」
「コラコラ、洗濯中にどうして脳みその話でケンカするんだ。離れろ」
…ったく、ガキってのはどいつもこいつも面倒くせー奴ばっかだな。
そんな光景をボーっと見ていたナイジェル。
興味のないケンカは無視して干す作業を続行しようとすると、ある男の行動が目に入った。
美空がせっかく干した洗濯物をカゴに戻し始めているのだ。
「七音、まだ乾いてねぇだろ。なんでもう取り込んでんだ?」
「え…だって僕の洋服台無しにしたくないし」
「何言ってんだ、お前」
訳がわからずに首を傾げると、ポツンと鼻の頭に何かが落ちてきた。
…濡れている。これは。
「…雨?」
ぽつりぽつりと、落ちてくる雨粒が増える。
空を見上げれば黒い雲が立ち込め、雨の雫を落としてきていて…
「え?雨!?さっきまで雲ひとつない青空だったじゃん!」
ビッキーやその他の人間が慌てて洗濯物を取り込み始めた。
「物事はなんだって順序が大事だろ!?どうしてそれがわからないんだ!?」
「わかんないっすね!何も考えずに突っ走るのが、俺の美学っすから!」
一瞬にして辺りが大雨状態。ゲリラ豪雨だ。
取り込んでいる間にも、全員の体がずぶ濡れになっていく。
「ちょっ…七音、どういう事だ!?」
「だってミヤ君が怒ってるんだもん」
「はぁ!?」
持ってきた傘をさしている美空は「大変だねぇ」と他人事のようにヘラッと笑った。
「ミヤ君が怒るとね、雨が降るんだよ」
「怒ると雨が降る!?」
もはや立ってもいられない豪雨の中、ナイジェルは美空の言葉を繰り返す。
「あ。ちなみにヒーちゃんが怒るとね…」
気がつけば先程まで降っていた雨がやみ、雲の隙間から現れた大きな太陽が地面に向かって光を発射してきた。
まさに快晴だ。
「あ…晴れた!なんだ?さっきのは通り雨だったのか」
何も知らないジム達が再び洗濯物を干し始める。
「晴れるんだぁ」
サングラスをかけて、雨晴兼用の傘で直射日光を避ける美空。
いつもの事だとナイジェルに説明しているが、当の本人には意味が伝わっていないらしく何も返事が返ってこない。
日晴「じゃぁいいっすよ!もう干さないっす!」
雨宮「誰も干すなとは言ってないだろ!そんな濡れたまま持って帰るのか!?」
日晴「じゃぁ、人の干し方にグチグチと文句つけないでくださいよ!」
ザァ―――――――ッ!
ピカァ――――――ッ!
ザァ―――――――ッ!
ピカァ――――――ッ!
ザァ―――――――ッ!
ピカァ――――――ッ!
「きゃぁぁ!もう何なのよ、この天気!!」
ビッキーが叫んでも天気は元に戻らない。
5秒ごとに豪雨と快晴が入れ替わり翻弄される。
「なんかよくわかんねーけどやめさせろ、七音!」
「無理言わないでくださいよー。ウチの連れは意外と意地っ張りな奴が多いですから」
「ふざけ…」
ヒュー…
一瞬ナイジェルの体に、晴れた暖かい一日だったとは思えない冷たい風が当たる。
「え…まさっ…」
雪之原「ふたりともいい加減にしなよぉ!!」
ドワッ―――――――ッ!!!
豪雨…時々猛吹雪。
薄着スタイルのメンバーに、突然冷たい雪が吹きつけた。
「寒っ!寒い寒い寒い!!」
「何なんだい、このイケメンの僕に吹きつける冷たい雪は!」
止める事も逃げる事も出来ず、6人はただその場にしゃがんでうずくまる。
「くしゅん!寒いです…!ジム、暖房つけてください!」
「物干し竿の下でどうやって暖房をつけろっていうんだ!?」
「あ…そういえば前に雑誌を読んだ時、weather lifeの公式プロフィールがあって…あの時確かこう書いてあったわよ!」
サラがそれを思い出し、必死に顔を上げた。
*****
日本から来た人気バンドグループweather lifeに徹底密着!彼等の素顔に迫る!
【ハレのちウェザーライフ】
●メンバー紹介●
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雨宮 律(18)
6月2日生まれ
ベース担当
特技:あまごい
ジム「あまごい!!?」
日晴 響介(18)
8月19日生まれ
ギター担当
特技:太陽おこし
ビッキー「太陽おこし!?」
雪之原 奏(18)
2月17日生まれ
キーボード、ピアノ担当
特技:雪降らし
リッキー「雪降らし!?」
*****
モワモワとサラの記憶が頭上から消える。
「ちょっと待て、意味がわからない!何?アイツら天気まで変えられんの!?ほとんど神様じゃん!」
「じゃぁ…止めるにはどうすれば……うわっ!」
リッキーも強い風に耐えられず、体ごと軽く飛ばされそうになる。
「奏、邪魔しないでくれ!」
「そうじゃないよぉ!だって…」
「これは俺達の問題なんすから、雪之原さんは黙ってくださいっす!」
「だって皆の迷惑になるし!いい加減にしてよぉ!!」
ゴォォォォォッ!!!!(吹雪)
ジム「迷惑なのはお前だぁっ!」
「七音!お前アイツらといつも一緒にいんだろ!?どうすりゃ止められんだ!?」
「んー…怒りを静めてあげるしかないんじゃない?」
「こんな状況じゃ動けるもんも動けねーだろ!」
雨晴雪兼用の傘をさし、電気ストーブで温まっている美空は、ナイジェルの質問に真剣に答えようとまるでしない。
「…っ!」
ふと気がつくと雪はやみ、しかし目の前が灰色。
前が全く見えない。
ジム「なんだ!?あまごい、太陽おこし、雪降らしときて、まさか今度は『雲呼び』とかじゃないだろうな!?」
サラ「違うわ!これはクラウディ君の『雲隠れの術』よ!」
「なんでひとりだけ忍者なんだよ!」
きっと声に出さないだけであって、クラウディも怒っているのだろう。
あの温厚そうな彼が怒るなんて相当の事だ。
しかし、先程のようにびしょびしょになったり寒さに凍えるというような身体的被害はない。
黙っていれば過ぎてくれそうだ。
よし。今のうちに…
「4人とも聞け!もうケンカはやめるんだ!そんな怒ってばかりいたって洗濯は終わらないぞ!」
どこからかジムの声が聞こえる。
おそらく姿が見えない事を利用し、声だけで説得しようとしているのだろう。
きちんと聞いているのか、酷くケンカをしていた彼らの声も今は静まっている。
「だから…ケンカなんてやめ…」
ピカッ!
ドッカ――――――――ン!!!!
「…!!」
「キャァッ!」
突然光った後に何かの大きな音が響き、地面が激しく揺れる。
驚いた女性陣が声を上げ、それぞれが顔を伏せた。
・
・
・
「な…なんだい!?今の!」
「わかんない。なんか…雷が落ちたみた…」
サラの言葉が止まる。
その意味がわかったのか、全員の顔がサァーっと真っ青になっていき…
ピカッ!
ドッカ――――――――ン!!!!
ピカピカッ!
ドッカ――――――――ン!!!!
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!
「「いやぁぁぁあっ!」」
止まらない揺れに大きな音。
恐怖のあまり、それぞれが逃げようとあちらこちらに走り回り始める。
「かか…雷!?ふざけるな、この褐色の肌がますます黒くなるではないか!」
「ここは雲に覆われてるから、どこに落ちてもおかしくないのよ!」
「ってか、ジムは!?さっき途中で喋らなくなって、それっきりですよ!!」
「やだぁぁっ!怖い!助けて、リッキー!!泣」
濃い雲の中で続く激しい雷鳴。
「おい!七音!お前なんとかしろ!」
「えー、だってだるいし」
「俺達を見殺しにするつもりか、コラ!」
ゴム手袋でなんなく雷を弾いてしまう美空。
「どうしようかなぁ」なんて余裕ぶっこいている声が妙に腹立つ。
ピカッ!
ドッカ――――――――ン!!!!
「ウッワ!!」
さすがのナイジェルも強い衝撃に驚いて顔を伏せる。
「もう…仕方ないですねぇ。一回だけですよー」
トンッ
トンッ
「……っ」
面倒臭そうにため息をついて、軽く足でリズムを取り始めた美空。
ようやく何かしてくれる気になったのだろうか。
トンットンットンッ…
トンットンットンッ…
なんでもいいからこの馬鹿な天気を止めてくれ。
やる気のなさそうな七音でも(一応)weather lifeのリーダーだ。
きっと何かとっておきの秘策があるのだろう。
ナイジェルはそう信じて顔を伏せ続けた。
トントントン…トンッ…
足で地面を蹴ってリズムを刻む。
その足取りがどんどん軽くなっていく。
トンッ…トンットントンッ…トンッ
頼む!
来い…!!
パチッ!
閉じていた目を一気に開く!
その瞳はまるで太陽のように真っ赤に染まっていて…
とてつもないオーラを体中にまとってい…
「良い詩が浮かんだ。帰る」
「………は?」
傘を振りながら、タッタッタッと軽い足取りでナイジェルの前から走り去るリーダー。
「オイッ!ちょっ…お前にも何かとっておきの技があるんじゃねーのかよ!
ちょっと待て!!
コラ、クソガキ止まれぇぇぇッ!煤v
ピカーッ!
ドッカ――――――――ン!!!!
ナイジェルの台詞に合わせるように、背後に大きな雷が落ちた。
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