「リッキーッ♪」

わごっ!と、おかしな声を上げたリッキーの首には、いつもの彼女の細い腕が強く巻きつけられていた。


「ビッキッ…くるっ…苦し…息がッ…」

「やーん!今日も格好良い〜!ね、遊ぼ遊ぼ!」


一時、背後を取られたビッキーからの「首を絞める」攻撃が続いた後、リッキーはその苦しみから解放された。

当の本人は全く悪気がないようだ。

…女の子のはずだよねっ…なんでいつもこんなに力強いんだろ…。

メインルームのソファーに座り、彼は首を抑えたまま大きく息を吐く。


「ハァ。遊んで欲しいんですか?いいですよ…」

「キャァ!嬉しい★」


見た雰囲気では、どちらが年下かわかりゃしない。

ビッキーは喜びを爆発させ、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「ショッピングですよね?俺、着替えてきますから」

「あ!今日はショッピングはダメ!私、最近金欠で…」

「え?珍しいですね」


先程の嬉しそうな表情から一変。

突然申し訳なさそうに手を合わせるビッキーに、立ち上がりかけていたソファーに再び腰を下ろす。

いや、それほど彼女の口から「金欠」という言葉が出てくるのは珍しい。

どれ位珍しいかと言うと、ボビーが全身タイツの上からTシャツを着てる位珍しい。

というか普段あれだけお金を使って、今までどうして金欠にならなかったのか…それが不思議なくらいだけど。


「じゃ、何をするんですか?」

「うーん…リッキーとなら何でも良いんだけど。じゃ!ビッキーちゃんハグハグゲームしよ!」

「それはさすがに…恥ずかしいです…」

「えぇ?じゃぁ!ビッキーちゃんラブ注入ゲームしよ!」

「どんなゲームですか?もっと出来ません(笑)」

「ん?あれ、リッキー見て」

「なんですか?」


彼女が指をさし、視線が別の方向へ動いた。

ひとりの男がこちらに近づいてくる。

黒のキャップを被り、紫のベストにジーパン。

だるそうな足取りで床を滑るように歩くナイジェルの姿だ。


「わ!どうしたんですか?」

「…んだ?ジロジロこっち見て」


ようやく彼らの前まで歩いてきた。

驚いている若者達のリアクションに、面倒臭そうに眉間を狭める。


「見りゃわかんだろーが」

「見りゃって…あ…」


リッキーとビッキーの視線が自然と手元に動いた。

彼の左手には長い釣竿が、右手には四角いケースを握っている。

休日の早朝…テレビ番組で見た人の格好にそっくりだ。


「釣り?」

「そーだ」

「楽しみなのか?」と訊かれると、だるそうな彼の表情からその答えを読み取る事は難しいが、網持参やバッチリと帽子を被っている事から、やる気はかなりあるようだ。



「よ!待たせたな!」

そこへまた別の男がやってきた。

「遅ぇぞ」

「悪いな、身支度に時間がかかって」

「オッサンが女子高生みてーな事言うな。気色悪い」

「俺よりオッサンにオッサン呼ばわりされたくないっての」


次に現れたのは、ナイジェルとは色違いの白のキャップを被り、海を連想させる青のパーカーを羽織ったジムだ。

こちらも長い釣竿に網など、道具をたくさん持っている。


「ジュリオス、アンタも行くの!?」

「ジムだ(怒)あぁ、俺もちょっと釣りに興味があってな。ナイジェルが休日にたまに行ってるから一緒に連れて行ってもらおうと思って」


楽しそうに笑うジムに「ふーん」と大して興味なさそうにビッキーが声を零している。

ナイジェルは竿の先をリッキーの方へ向け(良い子は真似してはいけません)、珍しくニヤニヤしながら口を開いた。

「釣りはいいぞー。あの大物がかかった時の興奮、息つく暇のない死闘、そしてその好敵を釣り上げた時の感動と喜び!まさに男のロマンだよなぁ」


「趣味までおじさんなんですね」




バチンッ!!!



真剣に男のロマンについて語るナイジェルにリッキーが余計な口を挟み、いつものごとく戦いが勃発する。

このふたりは仲が良いのか悪いのか…

「いつもの事だ」と気にする様子のない若干冷め気味のジムに「愛しのリッキーが暴行されている!」と戦いに加わるビッキー。

これもまぁいつもの事だ。



「ビッキーちゃん以外ーッ!君達うるさいのだよ!ご近所迷惑も考えたまえ、このクズがぁぁぁあッ!!」

「アンタも十分うるさいから…。何の騒ぎ?」


そこへ某ヒーローのように階段を一度に飛び降りてきたボビーと、そんなボビーの背中を見ながら耳を塞いでゆっくり降りてきたサラがやってきた。


「お、ボビーにサラ。テンションの差が激しいな、お前達」

「質問に答えたまえ!君達は一体こんな昼間から何をどんちゃん騒いでいるのだ!?」

うるさいな、とジムも耳に指を突っ込んだ。


「俺とナイジェル、今から釣りに行くんだよ。お前も来るか?」

「釣りだぁ?この華麗なスターの僕が、そんな君みたいなスポーツをやるわけなかろう!あぁん!?」

「君みたいなスポーツってどういう意味だ(怒)地味なスポーツって言いたいのか!?お前の頭の中では『ジム』と『地味』が同じ読み方なのか、あぁん!?」

最後にはジムとボビーまでケンカを始める始末。

大人5人が子どもみたいに乱闘を繰り広げる戦場で、サラだけが何かを考えるように黙って突っ立っていた。




「釣りねぇ。私も行こうかな」


「「…えっ?」」


彼女の意外すぎる言葉が耳に入ってきて、無意識に全員の手足が止まった。


ナイジェル「マジでか、サラ!?」

サラ「丁度退屈だったし。釣ったらタダで食べられるんでしょ?」

ジム「もうロマンとか一切関係なしに、魚食う事しか考えてないな!まぁ、良いじゃん!来いよ、お前も!」


なんだか釣りメンバー同士で楽しく話が盛り上がっている。

他3人は取り残された気分だ。



「ナイジェル」

「…あ?」


彼に話しかけたのは、ナイジェルの釣り道具でダメージを受けた痕跡が残るリッキー。

立ち上がり、口の端から血を流したまま彼は満面の笑みを浮かべた。


「俺も行きます★」

ジム「どこに?病院には行かないよ?」


「あ!リッキーが行くなら私も行く!」

「何!?ビッキーちゃんが行くなら僕も行くぞ!釣りは男のロマン、ビッキーちゃんの為に必ず大物を釣り上げてみせるからね!」

ジム「さっきまで俺みたいなスポーツって言ってたのはどこのどいつだよ!」


こうして調子の良いふたりも加わり、結局全員で初の釣り体験をすべく広大な海へ旅立つのであった。


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