……………

ビッキーが他の男達と遊びに行っしまって20分が経過していた。

その間行く宛もなく流されるように泳いでいたが、さっきまでが楽しかったせいか何をやってもつまらなく感じる。

まぁ…男がひとりで温水プールを泳いでるなんて、これほど惨めな光景はないよな。

ジムはとりあえずプールから上がり、置いておいたパーカーを目印に脇のベンチに座って大きく息を吐いた。


前を若い女性達が騒がしく横切ってゆく。

ビッキーと同じように可愛らしいビキニを着た女性達。

体型だってメイクだって、

髪の色だって髪型だって話し方だって…

今時の女性ってほとんど皆変わらないというのに。

なんで俺は我が儘で腹が立つ、アイツなんだろう。



「ヤーコン、ただいまぁ!」

「ジムだ」

ひとり寂しくベンチに座って考え込んでいると、ようやくビッキーが走りながら戻ってきた。

男達とは別れたらしく、彼女しかいない様子だ。


「探したんだよ!プールの中、どこもいなかったから!」

「疲れて休憩してたんだ。どうだ、楽しかったか?」

「うん!あのねあのね!さっきの男の人達凄かったの!50mプールを凄いスピードで泳ぎ切ってね!もう格好良くて…」


コイツは全然俺の気持ちなんてわかってなくて、他の男の自慢話ばっかりしてくる。

しかも凄く楽しそうに…


「そーかそーか。良かったな」

「ちょっと!何、その愛情こもってない棒読みな台詞!アンタそんなに泳ぐの得意じゃないんだから見習いなさい!」

「俺は別にオリンピックを目指してるわけじゃないから、ある程度泳げれば十分なんだ」


腕を組んでベンチから立ち上がる。


「お前も泳ぎっぱなしで疲れただろ。ジュースでも買うか?」

「え!?ヤーコン奢ってくれるの!?」

「ジムだ。ジュースくらい自分で買え」


パチンと軽くおでこを叩くと、ビッキーはケラケラと笑った。


「じゃ、行くぞ」

「う…」


「ねぇねぇ!」


するとまたビッキーに声をかけてきた見知らぬ男達。

金髪で数えるのが大変な位ピアスを付けている、いかにもチャラついた雰囲気だ。


「さっきから見てたんだけど、君可愛いよねぇ!良かったら俺達と一緒に泳がない?」

またか…。

ったく、次から次にウジャウジャと…(怒)


「え?あぁ、良…」

「ダメだ!」

「…え?」


ついに堪忍袋の緒が切れたジム。

ビッキーの手を掴んでいる男の手を振り払って彼女の前に立った。


「あ?何アンタ?」

「俺の妹は、先祖代々続く大実業家の家系にある超箱入り娘なんだ」

「はぁっ?」

「そういう事は親父の許可を取ってからじゃないと認められていない。申し訳ないが帰ってくれ」


突然の無茶苦茶な言い訳。

背中には意味がわからないと視線がぶつけられている。



「なんだよ…お嬢様ならあんな格好させんなよな」

断固として彼女に近づけさせない兄貴に折れ、チャラ男達は聞こえるように文句を言いながら去っていく。

彼等が去っていく背中を見て、ジムは「シッシッ」と追い払うポーズを小さく取った。


「ちょっと、ジョージア!?」

たまらずすぐにビッキーはジムの肩を強く掴む。


「ジムだ(怒)」

「なに今の!?箱入り娘だとか親父の許可とか!全部嘘っぱちじゃない!」

「当たり前だ、あーでも言わないと向こうも諦めないだろ。お前な…あんまりあっちこっち色んな男の所に行くなよな。何かあったら俺がサラ達に怒られるんだから」

「あるわけないでしょ、そんな事!」

「ある事もあるんだ!迷子になるから俺からあんまり離れるな。あと、これを着ろ」


ジムは自分が羽織っていたパーカーを脱ぎ、ビッキーに差し出した。

「え、嫌だよ!せっかく可愛い水着を着てるのに台無しになるじゃん!」

「ダメだ!着ろ!」

「なんで彼氏でもないアンタに、そこまで言われなきゃなんないのよ!」


最初のシーンを思い出すようなケンカが再び勃発し始める。

周りで子ども達が浮き輪を取り合って騒いでいるが、その後ろにいる大人ふたりも大して変わらない。

とにかく言いたい事を言い合って、お互い一歩も譲らないのだ。


「そういう問題じゃない!その…少しは察しろよ、子どもじゃないんだから」

「なによ!?私がこの水着を着て泳いでちゃダメだって言うの!?」

「そうは言ってない!少しは状況を見ろって言ってるんだ!」


コイツは本当に何もわかっていない。

結構目立つんだから、男が見てくるって事くらいいい加減気づいて欲しい。

こうやって彼女が見せ物になったり、浮かれて近寄ってくる男達がいると正直相当嫌になる。

出来ればこうやって見せびらかすような真似をさせず、誰の目にも触れさせない場所に連れて行きたいのに。

確かに彼氏でもない俺にこういう事を言う権利はないのかもしれないが、それでも我慢が出来ないのだ。

お節介だと思われても、お前を守ってやりたいと思っている。

それなのに…


「もういい、ロックと話しててもキリがない!私、ひとりで遊んでくるから!」

「あ!離れるなって…チッ。本当にアイツは…」


ジムの忠告も無視して、ひとりで再び水に飛び込んだビッキー。


本当…どこまでも自分勝手な奴だ。

まぁ、あの女がそう簡単に「うん」と首を縦に振るはずもないか。

俺は何をひとりで悩んで、落ち込んで、自分の中で自問自答を繰り返しているのだろう。


「お嬢さーん。飛び込みは危ないから禁止ですよー」


結局はグレーのパーカーをもう一度自分の体に羽織る。

監視員に注意されるビッキーの後ろ姿を見て、大きなため息が漏れた。


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