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……………
迷惑な客達のおかげで、売ってある商品の数もかなり減った。
残っている物は衣類3着、アクセサリー2点、壊れたトンカチ3本。
不本意にも全く売れない自無のブロマイド。
一枚は売れたものの、あまりに数が多すぎて完売の「か」の字も見えないボビーのブロマイド。
正直言って衣類とアクセ以外、売れる自信があるものが存在しない。
これは女性狙いで客寄せをした方が良さそうだな。
「よし、ビッキー。あとは気合いで勝負だ!衣類、アクセを重点的に売る事を考えて、女のお客さんを呼ぶぞ」
「え?トンカチは男性向けだよ?」
「こんなもん男も女も買うわけないだろ。ほら、早く!」
早速、狙い通りお洒落に興味のありそうな女性に呼び込みをかけ始める。
「いらっしゃーい!ほら、お姉さん!この服斬新じゃない?
右側がデニム生地なのに、左側がウールなの!羊なの!意味わかんないよね!」
「安いですよー!今ならなんとウン百円!
あっ!そこの貴方!このキュロットスカートとか凄く似合いますよ!」
「え?僕?」
「……あれ?」
聞き覚えのある無駄な美声。
振り返った男は、運悪く第4の知り合いだった。
「わぁ!ビッキーちゃん来てたの!?超偶然じゃーん!」
毎度問題を呼び込むお騒がせ男。
美空 七音だ。
ジム(小声)「ビッキー!女を呼べって言っただろ!なんでよりによってコイツなんだ!」
ビッキー(小声)「はは!髪長いし、後ろ姿が女の人に見えちゃって」
「なになに?ジムさんとビッキーちゃん、ふたりでフリマに出店したの?」
「そうだ。まぁ、色々あってな…」
「ふーん。じゃ僕はぁ…ビッキーちゃんをお買い上げしちゃおっかなぁ☆いくらいくら?」
「その台詞はこれで5度目だ」
「…あ?」
しゃがんで前のめりになっている美空の後ろに立っていた男は、眼鏡の縁をクイッと親指で上げた。
「お、雨宮君!君も一緒に来てたんだな」
「ご無沙汰しています、ジムさん。貴方方も出店していらっしゃったんですね」
「そうだよ!雨宮君は七音君とふたりで来たの?」
「はい。彼をひとり野放しにしておいたら、何をしでかすかわかりませんし」
「ちょ!なに、ミヤ君その言い方ー!」
「七音、今の正論だぞ」
男子高校生の漫才を終え、美空は立ち上がって雨宮の背中を叩いた。
「ま!せっかくビッキーちゃん達がやってるお店だし、何か見ていこーよ!」
「不要になった物を売ってそれをまた新しい持ち主が使用する。環境に良いエコ活動だ」
「もう!そういう難しい話はいいから!ね!」
テンション高く、再び前のめりになって商品に手を出す美空。
「えーと…あ、このブラウスなんてエマちゃんに似合うんじゃない?買って帰ろっか?」
「…彼女には少し派手じゃないか?」
「じゃぁこの真っ赤なリボンのついたビキニ!」
「これもどうだろう…」
「そうかな?あ。じゃぁ、ジムさんの部屋に飾る?」
「なんでお前らは揃いも揃って、そのビキニを俺の部屋に飾りたがるんだ」
結局、手に取った派手な服とキュロットスカートは「雪之原の女装用」として美空が購入。
雨宮も男性がつけてもおかしくないアクセサリーをひとつ購入したようだ。
「ねぇねぇ?ビッキーちゃん、僕このスカート似合うかな?」
「似合わないよ!だって七音君、男の子じゃん!」
「ビッキーちゃんが最初に似合うって言ってくれたじゃーん!」
「…ん?」
ふたりのどーでもいい会話をジムがのほほんと聞いていると、ある人物が前を横切っていく姿がたまたま目に入った。
見覚えのある姿。
アイツは…
「あ、バレルじゃん!来てたのか?」
「………。」
ジムが声をかけたのは、近寄りがたい独特な空気を放つ第5の知り合いの男。
リッキーの旧友、バレル・ヒューストンだった。
「まさかお前がこんな所に来てるとはな!こっち来いよ」
「…………。」
スタッスタッスタッ←無視して歩き出す足音
「オマッ…!いーから来いって!」
お節介なジムにとっては、いつもひとりでいる彼を放っておく行為が出来ないらしい。
慌てて靴を履き、彼の腕を掴んで引っ張った。
「離せ。うぜーな…」
「そんな冷たい事言うなって!俺達も出店してるんだ。よかったら見ていかないか?」
「…暇人が」
「確かに暇人だけど、君もその暇人の集り場に来てるわけだからな」
半ば強引に彼を自分のテリトリーへ引きずり込む事に成功。
初めて見る新しい顔に、好奇心旺盛な美空は興味津々にバレルを覗き込む。
「誰?この目つき悪い兄ちゃん」
「七音君、初対面の人に失礼な事言っちゃダメだよ!この人はバレル君。リッキーのお友達なんだよ!」
「…友達じゃねぇ」
「ふぅん、そっかー。兄ちゃん、これ買えば?(ボビーのブロマイド)」
「そんな腐ったものはいらん」
ジム「いや、腐ってはないぞ」
彼の声のトーンはいつもと同じで低く、いかにも迷惑そうに取れる表情。
そんな空気も読まずにジムはお節介に話を続けた。
「それにしても、バレルがこんな所に来るなんて意外だな!フリマ好きなのか?」
「好きじゃねぇ」
「じゃぁ安いから?バレル君バイトしてるからお金は持ってるでしょ?」
「あんな少ない金で生活していけるわけねーだろ」
どこかで聞いた話によると、バレルは小さなアパートで男一人暮らしをしているらしい。
なんだかんだで、結構切り詰めて生活しているのか。
少し意外。
「いやぁ。それにしてもお兄ちゃん男前だね!なに?その顔の傷?ファッション?」
「七音、失礼だぞ。やめろ」
右から左から顔を覗き込む美空を完全に無視し、バレルは商品をじっと見ている。
話はもちろん聞いていない。
「コイツは怒ったら結構怖いぞ?俺、本気で殺されるんじゃないかと勘違いした事あるから。な、バレル?」
「………。」
「こうやってたまに人の言葉を無視するんだ。酷いだろ?」
彼はひとつの商品を見たまま、黙って動かない。
「貴様」
「え、私?」
呼びかけた鋭い目線は、何故かビッキーの方を向いていた。
「これはいくらだ?」
「…………はい?」
「だから…これはいくらだって訊いてんだ」
「「…………。」」
エエエッ!?まさかの食いついた!?
バレルが指差しているのは、最後に残ったシルバーアクセサリーだ。
突然の事態に驚きが隠せない彼女は、咄嗟に真っ白の頭を回転させる。
「えっと…えっと……1万5千円!」
ジム「それ俺がプレゼントしてやったヤツだろ!金額リアルだな、売るなよ!」
「…………。」
顔に影が落ち、バレルは口を閉ざしたまま。
「5千円にしろ」
そしてまさかの値切り交渉!!?
え?そんな事するの?この人!
「そのっ…うんと……5千円は…ちょっと…」
「アァ!?怒」
「きゃぁっ!ごめ…ごめんなさい!」
ヤクザのような恐ろしい目線と声に怖じ気づいて、ビッキーは慌ててジムの後ろに隠れた。
「ま…待て、バレル。ちょっと落ち着け!」
「5千円にしろ」
「ちょ…えっ…そんなに欲しいのか!?これが!」
「ハイハーイ、皆さんストォップ!」
そこで間に突然割り込んできたのは、全く関係のない美空だ。
彼は迫るバレルとジムの肩を握ってふたりの距離をグッと離した。
「なんだ、貴様」
「まぁまぁ。僕に提案があるから聞いてよ、兄ちゃん!」
偉そうにコホンッと咳払いをし、彼はいつもの悪巧みをする表情で二組を見た。
「確かに値切る行為もフリマの醍醐味!だけどそれにも限度があるよね?」
バレル「…………。」
「でも、売る側にとってもお客様は神様!ちょっとくらいのサービスもやらなきゃ経営は成り立たないよ?」
ジム「ぐっ…それは…」
「というわけで!こういう時は勝負が一番!
値切るか値切られるか!
Fender Kissブロマイドカードゲームinフリマ対決を始めるよー!」
パッカーン!
パフパフパフ♪♪
誰が鳴らしているわけでもないのに、定番の効果音がどこからか聞こえた。
「カードゲーム?」
「…………。」
ルールを説明しよう!
ここにブロマイドカードの山があります!
最初に手持ちとして5枚ずつ引き、自分のターンが回ってくる度にカードを補充して、常に手元には5枚カードが揃うようにしておきます。
ジム「なんでお前、そんなにブロマイド持ってるんだ?非売品だろ」
生け贄を捧げると他カードのレベルアップが可能です!
他にアイテムカードもありますので、よく考えて使用してください。
ビッキー「アイテムカードがあるの?」
どちらかのカード3体が相手の攻撃で死んでしまった所で戦闘は終了!
ジムさんが勝った場合は通常価格の1万5千円で、このお兄ちゃんが勝った場合は値切り成功で5千円で購入。
OK?
「OK?って…まぁ俺達はいいとして、コイツがそんなゲームに参加するはずないだ…」
バレル「…貸せ。モタモタすんな、クズが」
美空「やる気満々だよ、この人」
ジム「そんなにこのアクセサリーが欲しいのか…」
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