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カァー
カァー
遠くでカラスの鳴く声が聞こえる。
空の夕方の色が徐々に黒に変わり始めた頃、バレルは今日も体に数カ所の傷を負って帰宅した。
事の発端はバイトを終えた帰り道。
いつもみたく周りを歩く人々は彼を危ない人間だと思い込み、極力避けて歩いている。
「ねぇ、お兄さんー。今暇?リーナ達超暇なんだけどぉ!今からそこの…」
たまに寄ってくるのは、単なる男好きのチャラついた馬鹿女くらいだ。
もちろんバレルにそんな女を相手にする時間も思考もあるわけがない。
見向きもせず歩いていると女は諦めてその場を去ったが、バレルは次にまた見知らぬ男に声をかけられた。
こっちに来いと言っている、体中にドクロの刺青のある坊主男。
鼻や口にまでいくつもピアスがあいている。
また雑魚がうじゃうじゃと…
眉間にシワを寄せて睨みつけると、男は馬鹿にしたように俺を睨みつけ返す。
「あぁ?んだ、テメェ。人の女に勝手に手ぇ出しといて…」
女…?
さっき話しかけてきた女か。
くっだらねぇ。
「知らん」
「しらばっくれてんじゃねーぞ、コラァ」
こちらへ歩いてきたと思ったら、荒々しく胸ぐらを掴まれる。
「離せ。俺は貴様みてぇに暇じゃねぇ」
「ハンッ。オメー…よく見りゃ最近この辺うろついてるゴロツキじゃねーか」
「ゴロツキじゃない。一緒にすんな」
「ヘヘッ。テメェとは一度やり合ってみたかったんだよ…」
バレルの話を全く聞く様子のない不良男。
彼は武器にもなりそうな指輪をたくさんつけている手を彼に見せつける。
「離せっつってんだろ。雑魚には興味ねぇ」
「アアン!?なんだと、テメェ!?」
「言葉の通りだ」
「調子に乗ってんじゃねーぞ!」
この先の展開は予想がつく通り。
周りに野次馬が集まる程のケンカが勃発し、バレルに叩きのめされた坊主の不良は尻尾を巻いて逃げて行った。
しかし、その代償は大きい。
つけていた指輪の拳で殴られたのか、
「ペッ」
バレルは口から血の塊を地面に吐き出した。
いくらダメージを与えられても痛がる素振りも見せない。
あんなケンカ慣れしていそうな不良をあっという間に蹴散らしてしまう姿。
周りから見ていた人間にとって、彼はまるで怪物か何かに見えた。
相手を徹底的に叩き潰す。非情な怪物。
「…アァ?何見てんだ」
「「…ッ…!」」
バレルに睨みつけられた途端、恐怖でその場を離れていく人々。
もう…こういうのも慣れた。
彼は再び自宅に向かって歩き出す。
唯一、自分が自分でいられる場所。
独りでいられる場所。
自分の周りに人なんて必要ない。
こんな腐りきった世の中、誰も信用なんて出来ない。
自分が信じられるのは自分だけ。
ずっとそう思っていた。
「………。」
家の扉の前に置いてあるクーラーボックス。
その中にはたくさんの果物や野菜、健康食品など。
それと救急箱。
あの女だ。
先日、バレルの家に初めて客が来た。
信じられないくらい馬鹿でお節介な野郎とその妹。
あの日以来、月に2回程。
彼の家の前にこうやって食べ物や救急用品が置かれている。
『帰れ。もうここには来るな』
あの言葉の意味が理解出来ないのだろうか。
バレルは置いてある品を無視して部屋に入ろうとするが…
グゥッ
腹が減った。
今日は不良に絡まれて、買った弁当もめちゃくちゃにされてしまい食べられる状態ではなくなってしまった。
「………。」
空の色が夜に近づく。
月が随分今日は大きく見えてきた。
彼は仕方なくクーラーボックスから食べ物だけを適当に手に取って、荒く扉を閉めた。
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