12
……………
歩き続けて5分。
駅前に着き、ここからまた10分くらいかけてバレルさんの自宅アパートまで歩く。
何事もなく帰ってたら引き返そう。
なんか…本物のストーカーみたいだな…私。
再び歩き続けて5分。
彼の姿はない。
街灯の少ない暗めの道を進む。
こんな事やってるってお兄ちゃんに知られたら、絶対怒鳴られちゃうな。
そしてまた5分。
あっさりアパートに辿り着いてしまった。
「…やっぱり」
彼の部屋の窓を見上げるが、電気はついていない。
まだ帰っていない証拠だ。
どこかで暇を潰してるのかな。
とりあえず、また駅まで戻ろう。
いよいよ暗くなってきたし、彼女自身も身の危険を感じる程怖いと思うようになってきた。
きっとバレルさんの事だ。
ケンカをしててもきっと勝って帰ってくるはず。
そう信じ自分の安全を考慮して、また駅まで逆戻り。
一日にこんなに駅に行ったり居座ったりする日は…多分もうないだろうな。
歩き始めてまた5分。
「…ん?」
ふとローラは足を止めた。
なんとなく騒がしい気配を体で感じたから。
周りは真っ暗闇。
辛うじて街灯の明かりがあるが。
―テメェ、調子に乗んじゃねーぞ!
…ふっざけんなコイツがぁ!!
やっぱり…声がする。
この静かな夜に不釣り合いな男の人が怒鳴っているような怖い声。
でも…
「バレルさん…」
細いヒールの足は自然とそちらの方向へ歩き出していた。
彼だ。
きっと彼がいるはず…
「ハァッ…ハァッ…テメェ…クソッ!」
ボコッ!
「グハァッ!」
夜の人気のない公園。
ローラの予想していた通り、その場所ではバレルと不良の二人組がケンカをしていた。
「やっぱりまた……あっ」
公園の外からこっそり覗いた彼女が小声で呟く。
よく見ると、あの不良のふたり…
*****
「なっ、何ですか!?」
「いや、あのね!後ろ姿が可愛かったからちょっと前から顔が見たいなーって思って!」
*
「あ〜?もしかして俺達に反抗するつもり?いざとなったら、君を一発ぶん殴って車でどっか知らない所に連れて行っちゃう事も出来るんだけど?」
「やめ…」
「オラ、早く来いやッ!!!」
「きゃっ…ごめんなさい!」
*
「ヒッヒッヒッヒッ…
お前も本当はすげー怖いんだろ?まさかこんな怖い物を持って復讐に来るなんて思ってなかったから。んなカッコつけてももう遅ぇんだよ。ヒッヒッヒッ…」
「足が震えてきてんじゃねーの?おしっこ漏らしそうなんじゃねーの??俺ら、マジでお前をぶっ潰そうと思ってるんだけど?大丈夫かなぁ?泣いちゃうかなぁ?」
*****
前回バレルさんに絡んできた、あの大きな人とニット帽の不良の人達っ…!
私と彼を路上で襲った人だ。
今でもまだバレルさんに絡んでいるのだろうか。
視線を変えると、公園隅のベンチに私が渡した紙袋が置いてあった。
特に潰れたり汚れたりしている形跡はない。
きっとまたケンカをふっかけられ、それに乗ってしまったんだろう。
ボコッ!!
「グフッ!!!」
「テメェエエエ!グハッ!」
ニット帽の不良が次々とバレルに攻撃をしかけるも、あっさりやられ返されてしまう。
凄く怖そうな人達。
普段なら絶対関わりたくない人達だけど…
ボコッ!!
「グッ!」
バンッ!
「グハァッ!!Σ」
顔面を蹴られたり殴られて金網に激突したり、頭を握られて地面に叩きつけられたり。
凄く痛そうっ…
やっぱり悪い人間と言えど、人が傷ついている姿を見るのは気分が良いものではない。
「グフッ!テメェッ、いい加減死…ゴフッ!!」
襲ってくるクマのような不良の腸にパンチを入れ込むバレル。
やめて…
「アァッ…グフッ!Σ」
「ガァッ!クッソ…ゲボッゲボッ!」
やめ…
「やめてください!!!」
「………ッ…」
ローラはいつの間にか、その場から飛び出していた。
ケンカに夢中だったバレルはその存在に気づかなかったらしく、振り返って彼女の顔を見た。
不良達はようやく暴行から解放され、死んだようにその場で気を失う。
「………。」
「バレルさっ…」
暗闇の中、真正面から見えた彼の顔は
狂気、怪物そのもの。
真っ赤な返り血を浴び、自分の口からも血が漏れ…
髪と髪の間から怪しく光るオレンジ色の瞳がローラに向けられていた。
「………ッ…その…」
その姿に呼吸を忘れ、金縛りにあったように体が動かなくなる。
足が震え…声も出ない。
元々正義感の強いローラは無意識に飛び出してしまったが、
こんなバレルの顔を見てしまうと、恐怖で何も考えられなくなってしまう。
「もうっ…こんな事…」
ザッ
ザッ
彼女の方向に向かってゆっくり歩き出した。
表情も変えず、言葉も何もなく…
身構える事も出来ず、足も動かない小さな体の前に立ち…
「バレッ……ンッ!Σ」
胸ぐらを掴まれたかと思ったら、突然キスをされた。
「…ッ!んっ!…ンゥッ!///」
反射的に唇を離そうとするも、彼の力はローラが想像する以上に強かった。
足のつま先がギリギリ地面に触れるくらいまで無理に体を持ち上げられ…
グチュッ…グチュッ!
「ンンンッ!…んぅっ!!」
強引に舌まで入ってきている。
鉄のような血の味が口の中に広がって気持ち悪い。
離してッ…!!やめて!苦しいッ!痛い!!!
心の中で叫んでも声が上手く出せない…!
「ハァッ…!ハァッ…!!Σ」
ようやく離されたと思ったが、胸ぐらは掴まれたまま呼吸が荒い。
「こんな俺でも、まだ近づきたいと思うか…?」
「……ッ…」
バレルの言葉に自然と瞳孔が開く。
「こんな俺でも…まだ助けたいなんてくだらねぇ戯言をほざくつもりなのか…?」
「バレッ…」
ただただ目から涙が溢れ出す。
怖いのかショックなのか、ただこの場から逃げ出したいのか。
理由はわからないけれど、自然と涙がボロボロと止まらない。
そんな震える彼女の表情をバレルは睨み続ける。
バサッ!!!!
彼女はようやく自分の手で彼の体を突き飛ばした。
「失礼します…!」
目に涙を浮かべながらよろける手で置いていたバッグを拾い、走って逃げていく。
「…………。」
薄暗い夜の公園の中。
その姿をずっと見つめる。
何も言わず…ただ見えなくなるまで。
ガサッ
ベンチに置きっぱなしにしていた紙袋を手に取り、
倒れている不良を放置して、バレルも公園から去った。
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