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……………
バレルさん…来ないな。
時計を見ると既に6時と針がさしている。
もう1時間も同じ景色をずっと眺めっぱなしだ。
景色は同じと言えど、空はだんだんと夕暮れに近づいてきている。
帰宅する為、電車に乗る人も増えてきたようだ。
小さな紙袋を握り、ローラはその場に座り続けた。
待ち続けて1時間半。
バレルさんはまだ来ない。
そして2時間。
空はすっかり暗くなっている夜の7時だ。
しかしバレルさんはまだ来ていない。
目に映るのは帰宅の為に電車へ駆け込むサラリーマン達のラッシュ。
街灯が点灯し始め、「夜」という事を視覚で実感し始めていた。
やっぱり、来ないのかな…
自分が送ったメールを見返し、そして大きなため息をつく。
多分、とっくにバイトは終わってる時間だし…
やっぱり無視されちゃってるんだよね。
また小さなため息が出た。
待ち続けて2時間以上が経った所で、ようやくローラは立ち上がった。
ずっと同じ体勢で座り続けていたからか、腰がズキズキと痛い。
「イテテ。椅子硬かったしなぁ」
その腰をさすり、そして置いていた紙袋を握る。
帰ろう。
今日が全てではない。
またきっとチャンスはあるはずだ。
「オイ」
「………ッ…」
突然、後ろから男性の声がした。
低いトーンのあの声。
心臓が高鳴り、まさかと振り返ると…
ずっと待っていた人がそこに立っていた。
「バレルさんっ…」
「…………。」
顔は凄く怒ってる。
人間のここまで不機嫌な顔を見るのは生まれて初めてかもしれない。
でも…
でも、本当にっ…
「来てくれたんですね…!」
「早く用を済ませろ」
「あっ…はい!」
人の行き交いの多い駅。
久々の再会を喜ぶ言葉もなく、用件のみを要求する彼に慌てて持っていた紙袋を差し出した。
「私…普段日本で生活しているんですけど、いつも同じ物を置いていってもつまんないと思って…!
日本の羊羹を買ってきました!甘くてすっごく美味しいですよ!」
「…………。」
「羊羹の他に、いつもと同じような食料品も入れておきました。多分まだ食べられると思うのでっ…」
「…………。」
ローラの顔を睨みつける目。
礼も言わずに彼は袋を受け取り、背を向けて歩き出した。
よかった…
ちゃんと来てくれた。
受け取ってくれたっ…
胸がいっぱいになって、嬉しくて涙が出そう。
諦めずに待っててよかった。
とりあえずホッと一安心。
これで心置きなくウィンディランへ戻れる。
彼が見えなくなった事を確認し、ローラは肩を撫で下ろす。
そして小さなバッグを持って、来た道を戻り始めた。
お腹空いた。
早く帰ろうっと…
・
・
・
ピロロロロ…!
「もしもし、あ。お兄ちゃん?」
駅を出てすぐ。
街灯の少ない道を歩いている途中、兄から電話がかかってきた。
『あ、出た。今どこにいるんだ?』
「ごめんね、遅くなっちゃって。今帰ってきてる所」
『そうか。またバレルの所に行ってたのか?』
「…まぁ」
『…。そうか。うん、まぁ…お前がいてくれるおかげで、アイツも傷の手当てとか大分助かってるみたいだからな』
「そう…あ…」
ふとその言葉を聞いて思い出した事があった。
そういえばこの間の背中の傷…大丈夫だったのかな。
結構傷が深かったし、包帯を替えるにもひとりじゃとても難しい部分。
それに…
無事に真っ直ぐ家に帰ったかも気になる。
彼の事だ。
また不良に絡まれてケンカをしている可能性もなくはない。
『…ローラ?どうした?』
「お兄ちゃん、やっぱりもう少しだけ帰るの遅くなるね」
『え?なんで?』
「ちょっと忘れ物しちゃった。もう暗いから駅からはタクシーで帰ってくるから」
『ああ、そうか…。気をつけてな』
「わかってるよ」
ピッ!
携帯の通話を切る。
ごめんね、お兄ちゃん。
本当は忘れ物なんか何もしてないけど。
これが、私の性格なの。
ローラは180度向きを変え、再び駅前の方向に向かって歩き出した。
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