お昼のweather life音楽事務所。

部屋にいたのはテーブルで詩を考えていたエマと、ソファーに座って読書をしていたクラウディだ。

そんないつもと変わらない和やか光景に、普段見慣れない物が運ばれてきたのはこのすぐ後だった。



ガチャン。


「ふぅ」

外から帰ってきたのは、紺色のジャケットを羽織った雨宮律。


「おかえり…なさい…あれ?」

「…?」


彼は部屋に入ったと同時に、大きな木の箱を広げていた紙の隣に置く。

大きさで言うと豆柴犬が1匹丁度入りそうなくらいの…あれ?表現おかしいかな。

エマとクラウディは興味が湧いたのか、それぞれの作業を中断して近づいた。


「雨宮…君。……これは?」

『これはweather lifeの理事長、我々の上司の私物だ。中身は壷だ』


雨宮が文字にして説明をすると、エマは小さく「壷?」と首を傾げる。


『あぁ。理事長が長年欲しがっていた品物で、今回オークションでようやく勝ち取り手に入れた一流の骨董品だそうだ。本日が初対面だそうだが、どうやら1000万円で落としたらしい』

「いっせ…!?煤v


驚きの額に恐れをなして、エマとクラウディは2〜3歩後ろへ下がる。

い…いっせんま…ん?

え?1000万円って0がいくつ付くんだっけ!?

その事実を聞いた瞬間から、木箱の隙間から光が漏れてきたように見えた。

雨宮はそんなふたりの反応にも触れず、難しそうな顔をして時計の針を見上げる。



「そこでクラウディ。お願いがあるのだが」

「…っ?」

「僕はこれから1時間程出なければならない。
今日中に理事長はこの壷を引き取りに来る予定なのだが、その前に問題のある奴らが帰ってくる可能性がある」


問題のある奴ら。

雪之原は現在自室にこもっているので、このビル内にいないメンバーは2名。

美空七音と日晴響介だ。



「…………。」



雨宮の眼鏡をはじめ、椅子、テーブル、ギター、その他生活用品…

犠牲となり惜しまれながらこの世を去った物は数知れない。

奴らはありとあらゆる物を壊す、破壊のスペシャリストだ。

その実力がどれくらいかと言うと、人が住む街中で容赦なく怪獣をぶっ飛ばしてビームを放ちまくるウルトラマンとほぼ同じレベル…あれ?表現おかしいかな?

クラウディの表情を見る限り「不安」という2文字が背景に浮かんでいる。


「絶対に、この壷に触らないよう響介と七音に言っておいてくれ。絶対だ。いいな?」


「絶対」という言葉をやたらゆっくり口にした雨宮に、クラウディは慎重に首を縦に振って返事をした。

まぁ、1000万円という額を聞けば、アイツらだって怖気づいて近づくまい。

自分達が確実に伝えれば、大きな問題は起こらないはずだ。



「時間だ。そろそろ行ってくる。クラウディ、頼んだぞ」

「(コクン)」


エマにも『行ってくる』と文字で伝え、雨宮は眼鏡をクイッと上げる。

そして置いていた鞄を再び手に取って部屋を出た。









「…………。」


ふたりはとりあえず例の壷をこの目で確認しておく為に、中身を見てみる事に。

クラウディが(どこから取り出したのか)白い手袋を付け、まるで専門家のように木箱の蓋を恐る恐る開けて取り出してみる。

入っていたのはやはり壷だ。

茶色に黒いひっかき柄が入ったような。

大きくてズッシリしている、なんとも重圧感のある壺。



エマ「わぁ…。…1000万…円…なんて……凄い…ね」

クラウディ「(コクン)」

エマ「私じゃ…一生…かかっても……買えないや…」

クラウディ「(コクン)」

エマ「…………。」

クラウディ「…………。」

エマ「思った…より……綺麗じゃ…ないね…。芸術品って…よく…わかんないや」

クラウディ「(コクンコクン)」


その後話し合った結果、美空と日晴はまだ帰ってくる予定の時間ではなかったため、先に朝から自室にこもっている雪之原に今の話を伝える事に。


「行こ」



木箱から壷は出されたままテーブルの上に。


エマとクラウディが去って、ガチャンと扉が閉まり…






















室内には誰もいなくなる。



無音の部屋の中、置いてあるのはひとつの壷だけだ。















ガチャン!!!




「ヒャッホ――イ!たっだいま〜!ってアレ?誰もいないの??」

「ヒャッホ――イ!!!たっだいま〜!あれ?誰もいないすか?」

「ちょっと、ヒーちゃん!それ今僕が言ったぁ!」

「マジっすか!?もしかして…これってデジャヴって奴じゃないっすか!?」

「マジっすか!?もしかして?」

「もしかして?」

「「ありえる〜!!!」」



なんとも頭の悪い言葉のキャッチボールが部屋に飛び交い始める。

神様は時にとんでもない悪戯をするのが趣味なのだろうか。


雑な手つきでロッカーに鞄が投げ入れられ、上着もハンガーに掛けられる事なくその辺に適当に置かれる。

まだ帰ってくるには早すぎる時間なのに、最悪のタイミングで破壊のスペシャリスト達がこの部屋に帰ってきたのだ。


「いやぁ、補習の先生が突然お腹痛くなってよかったねー」

「これはもう、俺達に勉強しなくていいですって神様が言ってるようなモンっすよ!」


美空と日晴は手も洗わずうがいも行わず、代わりに腕まくりを始める。


「よし、ヒーちゃん!『元気が有り余った室内ゲートボール大会』やろうぜ!」

「お、いいっすね!」



神様は…本当に悪趣味だ。



日晴のロッカーから何故か1本のゲートボールスティックが取り出される。

もちろん普通の若者ならこんな老人の必需品、持っている者はそういない。


それを受け取り、美空はまるで野球でも始めるかのようにポージングを決め込む。


「じゃ、先手美空先輩!いっきまーす!!」


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