35


……………


再びひとりになってしまった自室。

バレルは何もせずにただじっと見慣れた天井を見つめていた。

せっかく生きて家に帰って来れたのに、独り言も喜んだ顔さえしない。



ギギッ…



微かな足音に視線をその方向へ動かした。




「なんだ?」

「あ…えっと…リッキー君から、今日はここにいて欲しいとお願いされて」


玄関から再びこの部屋へ戻ってきたのはローラだった。

余計な真似を…と、バレルは小さく舌打ちをする。



彼女は家主の許可も取らずにベッドの隣に小さな台を持ってきて椅子代わりに座ったが、特に文句は言われない。


黙って横たわっている彼の顔を覗いて、突然クスッと笑った。


「何がおかしい?」

「いえ、バレルさんって肝心な時にはいつも怪我してベッドに寝てますね。前の時も入院して寝てましたし」

「今回は大した事ねぇ」


子どものように反論する姿に、再び小さく笑うローラ。

まぁ、前回の銃で撃たれた時に比べれば、骨折もしていない今回ははるかに軽傷だ。


軽傷と言う割には血がいっぱい出てたけど。



「笑ってんじゃねーよ」

「ごめんなさい。…でも、あんなに正直にバレルさんが自身の事を話してくれたから…なんだか嬉しくなってしまって」

「…………。」


目を逸らす彼。



「大丈夫ですよ。私はこれからもここへ来ます。
ゆっくりふたりで、平凡な生活を取り戻していきましょう」


優しく微笑むローラの顔。

バレルはそんな彼女を見た後に、ゆっくりと上半身を起こし始めた。


「…っ、ダメですよ。寝てなきゃ」

「大した事ねぇっつってんだろ」


言う事を聞かず起き上がった後

小さく息を吐いた。




「アイツらにもだが、お前に一番心配をかけ、危ねぇ目にも遭わせた。

すまないと思っている」


「バレ…ル…さん?…はは、どうしたんですか?なんだか貴方らしくないですよ」


こんなに素直に謝罪の言葉を述べてくるとは、確かにバレルらしくない。


ふと目が合い、ローラの頬がみるみる赤くなっていく。

その瞬間、昨日彼に抱き締められた事を思い出して、急に恥ずかしくなってきたのだ。



「………。」

「あ…の、バレルさん…?///」

「………。」

「あっ、わかった!もしかして何かお詫びをしてくれるんですか?

そ…それじゃ、どうしようかな…じゃぁ特別にほっぺにちゅーとかし…」











「………はぁ…?」











バレルは普段通りの冷めきった目つきでこちらを見ている。


完全に呆れている顔。


場を和ませようとジョークを言ったつもりだったが、そもそも「ジョーク」という概念が彼に通じるわけもない。





「あ…あはは。冗談ですよ…。そんな目で私を見ないでください…」


「ウゼェ」






「ウザい」って、また言ってもらえたんだ。


一時はもう言ってもらえないかもしれないと諦めかけた事もあった。


ありがたく受け止めなければ…(泣)


なんなの、こんな事をありがたく受け止めるなんて…私どういうキャラなの?




「はぁ…。バレルさん、そういえば数日間ちゃんとした食事を取っていないそうですね。
お腹空いたでしょう?何か作りますね…」


ため息をついて腰を持ち上げる。

気を取り直し、いつものようにご飯を作ってあげよう。

これが彼が一番喜んでくれる、というか機嫌が良くなる方法。


ご飯ももう作ってあげられないかもしれないと諦めかけた事もあったんだ。

作れるだけ感謝しなければ…(涙)



キッチンまで歩き、手を洗って冷蔵庫を開けてみる。





「バレルさん…。冷蔵庫にニンジン1本しか入ってないです…」


相変わらず、ある食材は全て食べ切ってしまい冷蔵庫の中はほぼ空の状態。

仕方ない、棚の中に入っているレトルトカレーを作ってあげるしかないか。

栄養は取れないかもしれないけど、お腹は満たされるはず。

こうなったら、余ってるニンジンもカレーに入れちゃおう。

他の食材はまた後で買ってきてあげるしかないか。


頭の中で工程を考えながら作業に取りかかる。














「……………。」



バレルは体を覆っていた毛布をめくり、ゆっくりとベッドから降りた。









「今日はもうレトルトカレーで我慢してください。お野菜とか缶詰は、また後で私が買ってきますから」


とりあえずニンジンを洗い、次に包丁を取り出す。

ヘタとお尻を落として、あとは皮を…








その瞬間






スッと後ろから伸びてきた手が視界に入る。



「っ…」



その手から包丁を奪われ、まな板の上に。


そのすぐ後だった。





「ッ!」


グッと強く肩を握られて向きを変えられると、真後ろに彼が立っていて


「バレッ…んっ!」




そのまま唇を重ねられる。


あまりに唐突の出来事にローラの体が硬直していると



「ンッフ!///」


バレルは彼女の後頭部を手で掴み、逆の手は腰に回して

舌を使って無理やり唇を割いて口の中まで侵入してきた。



クチュッ…チュッ…!


「…んぁっ///…バレッ…!」


腰を軽々と持ち上げて調理台に乗せて

彼女が拒んでも強引に。

何も考えられなくなるくらい、何度も何度も深くキスをしてくる。


「ンフッ…!…んんぅっ////」



そのうちにローラも徐々に抵抗しなくなり


バレルはようやく顔を少しだけ離した。


「バレルさんっ…。ど…どうしちゃったんですか…////」

「お前が望んだんだろ」

「私はっ…頬と言ったんです。誰もここまでなんて…」

「俺がんな生ぬるいモンで満足すると思ったのか?」



バレルさんの顔をこんなにも近くで見るのは初めてかもしれない。

悪人面。怖くて非情な人に見えるけど…でもほんとは違う。


この人は…



「ンッ…んぁっ////」


再びキスをされる。

前に公園で無理やりされた時みたいに強引だけど…



…クチュッ!チュッ…チュパッ!


「んはっ…///ん…」


もう血の味はしない。

あの時とは違う。


「んぁっ!…ん……う…///」



今まで押さえ込んでいた理性が全て崩壊してしまい、激しく抱き締められ

ローラも片手は台に置いたまま、もう片方のもがく手で彼の背中を掴んだ。


経験のほとんどない慣れない行為だけど、バレルさんのキスは素人の私でも上手なんだとわかる…

リードしてくれるというか、ひたすらされるがまま。

頭がクラクラしてきておかしい気分になってしまいそう。


ふと次にスカートをめくって太ももを撫でられ、首についた傷跡を舌で舐められる。



「ヒャッ///やだ…バレルさん…恥ずかしいっ…」

「…………。」


苦しくなる程のキスを繰り返し呼吸が乱れている彼女の顔を見た後、

彼は何も言わずに横抱きにしてその場から小さな体を下ろす。



「ちょ…ちょっと!?何してるんですか!そんな怪我してるのに!」

「テメェの体なんか片手でも持てる」



そのまま向きを変えて歩き出した。



「バ、バレルさんっ?お料理は…?」

「今はいらねぇ」

「でも…」

「状況わかってんのか?」

「へっ?」



歩いている先に視線を向けると


そこには先程まで彼が横たわっていたベッドが。



この先の展開に…もちろん心の準備は出来ていない。





「えっ…!?ちょ…待っ…!降ろしてくださいッ////」

「…………。」



必死に腕の中から逃れようと抵抗するも、こんなにも怪我をしているバレルの力の方が強くて床へ降りられない。


もう、逃げる事は出来ないようだ。




「自業自得だ。こんな男を助けようなんて考えた自分の正義感を恨むんだな」


「バレ…ッ…」



上半身を支える手を持ち上げ、グッと顔を近づける。

















「ローラ」









「……ッ…」





耳元から聞こえた彼の声は、普段の冷たく棘のあるものじゃない。


囁く男性の甘い声。




「バレルさっ……ッ…///!」





バレルは途中で降ろす事なく、その体をベッドまで運んだ。






fin


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