「よいしょ」


小さく息を吐いて、クリップ留めした書類をひとつにまとめるエマ。

壁にかかっている時計を見上げると、時間はお昼の3時を回っていた。

今、この事務所の部屋には私ひとりしかいない。

weather lifeの皆は外のお仕事に行っちゃったからひとりで留守番をしていたのだ。


でも終わるのもお昼すぎだって教えてくれたし、そろそろ帰ってくるかな。


さすがにこんなに長い時間ひとりでいるのも寂しい。

いつものこの部屋にいるのに、皆の騒ぎ声や笑った顔が見れないとなんだか物足りない気分になるのだ。

まぁ私は、騒ぎ声はなんにも聞こえないんだけど。(見ただけで騒がしい事はよくわかる)


椅子から腰を上げ、何気なく窓から下の駐車場を覗いてみる。




「あっ」




丁度見下ろした時に停まる大きなワゴン車が見えた。

皆が乗っている車だ。

無事にお仕事を終えて帰ってきてくれたんだ。












「たっだいま〜。あー、しんどかった!」

「おかえり…なさい」

「ただいま、エマちゃん!」


笑顔で手を振る七音君を先頭に他のメンバーも荷物を抱えて部屋の中へ入ってきた。

日晴君やクラウディ君がお菓子の袋を持ってる。

もしかしてお土産かな。



『何か変わった事はなかったか?』

「なかった…です」


雨宮君の質問に首を横に振ると、安心した顔で「よかった」と言葉を漏らした事が見てわかった。


「さて!今日の仕事も終わりっすね!こんな早く終わるの久しぶり!」

「そぉだねぇ〜。ウサギカフェに寄って帰ろーっと」

「雪之原さんも好きっすね。家にもウサギいるんでしょ?なんで金払ってまでまたウサギを見に行くんすか?」

「君が家で晩ご飯を食べるのに、帰り道でコロッケ買い食いしてるのと一緒だよぉ」


ほとんどのメンバーはこれで本日の業務は終了。

それぞれ帰り支度を始める姿は芸能人とはいえ、極普通の男子高校生だ。



でも、私にはまだお仕事が残っている。


時計を再び見た後、その人の顔を見…






ダッ!

ダッ!

ダッ!

ダッ!




騒々しい物音にそれぞれが振り返る。





「エマちゃーん、カラオケ行こう!!」



そこで彼女の元へ走り出したのは、weather lifeのリーダー。

ぽかんとしているエマに向かって両手を広げて大型犬のように突進してきたのだ。









「わっ!」



そこでエマの前にスッとひとりの男が立ち、慌てて美空は急ブレーキをかける。


「ダメだ。エマは今日、これから僕と理事長宅に資料を受け取りに行く約束をしている」


雨宮だ。

親指で眼鏡の縁を持ち上げる独特のスタイルで美空の前に立ちはだかり、思わず眉間にシワを寄せる。


「えぇ、またぁ?ミヤ君、この間もどっかにエマちゃん連れて行ってたじゃん!自分から外に出しちゃダメだって言ったくせに!」

「僕が傍に付いている場合は問題ない」



「また始まった」と言わんばかりにクラウディや他のメンバーがその顔を見合わせた。

最近、このふたりはこんな内容で度々言い争いをしている姿が目に付く。


もちろんエマ自身は聞こえないので何故ふたりが言い争っているのか理解はしていないが。





「…あ…あの…ふたり…とも…」

「大体カラオケなんか行っても、エマは歌えないから楽しいわけないだろ」

「カラオケの途中でおしゃべりも出来るし!ねぇミヤ君〜!僕のヒーちゃん貸してあげるから!」

日晴「いつから僕のヒーちゃんになったんすか」

「ダメだ。次曲の打ち合わせも併せて行うからには彼女が必要だ。行きたければ別の日にしろ」


携帯に打ち込んだ『時間だ。行こう』の文字。

それをエマに見せた後に雨宮は扉まで歩き出した。


「…っ…。い…ってきます」


美空を気がけ、部屋の妙な空気にキョロキョロとしながら、彼女も雨宮の後を追って部屋を出て行った。



「ケッ。なんなのさぁ」

「ははは。残念だったねぇ、ナオ君」

「…………。」


鼻に付く笑い方の雪之原にも目を向けず、ブスッとしたままの美空。

そのまま「先帰ってて」と伝え、彼は地下の自室へひとり向かってしまった。

気に入らない出来事があった時はいつもそうだ。

恐らくお気に入りのチェロでも弾いて、溜まったストレスを発散しているのだろう。




「はは。またイジけちゃったっすね、美空さん」

「最近エマっちをリツ君に取られ気味だからつまんないんだろーねぇ。さ、クララ一緒にウサギカフェ行こぉ♪」

「(コクン)」

「え?クラウディさんも行くんすか!?じゃ俺も行く!腹も減ったし!」

「なにそれ、ウサギ食べる気ぃ?」


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