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例の男ふたりは第二車両。一番後ろの席にいた。

広い車内。

他の席は全て空いているのに、何故か隣同士くっ付いて座っている。


「あぁ…なんか叫んだり走り回ったりしてたら、疲れが後からくるな」

窓側に座っていたナイジェルは頬杖をつきながら、いつものようにだるそうな声。

「それ、100パー年寄りに見られる現象ですよ」

通路側に座っているリッキーも、いつもと変わらず丁寧な口調だ。

むさい男と隣同士で座っているからか、普段の爽やか感は微塵も感じられないが。


「ナイジェル、リッキー」

「サラ?」


前の車両からやってきたのは、長い金髪を揺らしたサラ。

「失礼」と言いながら、彼女はふたり用の席に座っている男達の間に無理やり座った。

もちろんかなり窮屈だ。


「サラ…狭いです」

「良いじゃない、こんな時くらい」


フフと笑う彼女の顔に悪気はない。

リッキーは密着している体を少しでも離そうと通路側に寄る。


そんな彼にまた小さく笑い、そして改まってふたりにお礼を言った。


「昨日はありがとね」

「別にお前の為なら当然だろーが」


強がって言うナイジェルの右頬には、赤い一本線の傷が。


「ナイジェル。この傷…昨日の」

「あ?あぁ、大した傷じゃねぇ」

「見せて」

「見せてって…大丈夫だって言ってん…」





チュッ


彼女は彼の肩に手を置き、その傷の上に軽くキスをした。



「……………………………?」


柔らかい唇の感覚。ふわっと香った女性の香り。

彼は右頬を押さえ、目を点にして固まってしまう。

もちろんそれを横で見ていたリッキーも。

見ていた方は頬がみるみる赤くなって…



「え…何?…今の?」

「私を護ってくれたお礼」


顔の距離は近く、サラはナイジェルの絵に描いたようなぽかんとした表情を、今まで見た事のない優しい瞳で見ている。


「サラ…」

「何?」

「今度はふたりで親父さんに会いに行こうな」

「馬鹿」


パチン!


「イッテ!」

相変わらずのセクハラおじさんに、今度はわざと傷口の上を叩いてやった。



「ねぇ…サラ」

次に彼女の名前を呼んだのはリッキー。


「俺も結構頑張りましたけど」

「リッキーはまた今度ね」

「何で!?だって…え?傷とかないとダメなんですか?」

「貴方は私をベッドに押し倒したじゃない」

「んだと、テメェェッ!!!!!」


サラの爆弾発言に、ナイジェルも顔を真っ赤にして動く車両の中で立ち上がる。


「ベッドに押し倒してあんな事やそんな事をしたぁ!?お前…俺は死ぬ思いで戦ってたのに…お前ッマジで…!」

「あんな事やそんな事はしてません!」

「本当だな?」

「本当です。する前に邪魔が入りました」


やっぱするつもりだったじゃねーか!と、激怒していつものふたりのケンカが始まる。


「はぁ…」

そんな彼らに大きなため息をついて、サラは手を伸ばした。

強引に腕を掴み、再び両脇に座らせる。

ふたり用の座席にひとり多く座ると、やはり体はかなり密着してしまって…



「ありがとう、王子様♪」


「「……ッ////」」



その言葉にふたりはまた顔を赤くして、同時に逆方向に視線を逸らしてしまった。






あと何時間もすればウィンディラン本部へ帰れる。



それまでは、今日はこうしていよう。






fin


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