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8月16日。
特に何の日というわけでもない(強いて言うなら、もうすぐ俺の誕生日くらい)
いや、そんな事はどうでもいい。
俺はこの日に全てをかけていた。
今日。鈴ちゃんに告白をする。
一世一代の大決心だ。
丁度今日が鈴ちゃんのバイトの曜日でもあり、俺も仕事を片付けて時間も取れている。
そして金曜日。
土日があればフラれてひたすら泣いても誰にも見られない。
この日だ。
この日しかチャンスはない。
昼間から既に心臓が張り裂けそうだった。
授業を終え、いつものように事務所に集まって音合わせを始め…
「んじゃ、今日はここまでね!お疲れさまーず!」
美空さんの一声で事務所を出る。
何かを察知されたのか、去り際にチラリと雪之原さんから顔を見られた気がするが…そんな事もどうでもいいと思える程緊張が止まらない。
でも…今日…やるって決めたんだ。
あの人が言っていた通り、あんなに好きになれる人なんて今後いないと思う。
オッケーでもダメでも、この気持ちは伝えないと絶対に後悔をするっ…
夜の街を歩き、見えてきたいつもの花屋。
「いらっしゃいま…あら、日晴君」
こんな日に限って別のスタッフさんっ…
いや、気にするな。
俺は…
「鈴ちゃんですね。少々お待ち下さい♪」
俺、何も言ってないのにっ…
何ここキャバクラ?別に指名とかしてないけど。
やっぱりこの人には俺の感情を見透かされてる気がする…
ごゆっくり、とスタッフが立ち去った後に鈴ちゃんはのこのこやって来た。
「あ、日晴君!いらっしゃいませ!今日もお花をお買い求めですか?」
「あっ、いや…」
「………?」
「………。今日は…花を買いに来たわけじゃないっす。鈴ちゃんに…ちょっと話があって」
「お話…ですか?」
「はい。だから…帰り道で話したいので…店の前で待っててもいいっすか?」
「…………っ…」
一瞬、鈴ちゃんの表情が曇ったように見えた。
俺の、今からしようとしている事に勘づいたのか…
無意識にごくりと息を呑んだ。
「わかり…ました。もうすぐ閉店なので、すぐ行きます」
「お願いします」
やはり鈴ちゃんの声のトーンが少し低い。
不安が胸をよぎる中、俺は彼女が終わるまで店の前で立っている事に。
大丈夫だ。
大丈夫だ。
大丈夫だ。
先程の鈴ちゃんの曇り顔を思い出す度に何度も自分に言い聞かせる。
きっと、少しびっくりさせただけで深い意味はない。
雪之原さんだって背中を押してくれたんだ。
絶対に大丈夫。
20分後、制服に着替えた彼女が現れて俺達はいつものルートで歩き始めた。
駅までは歩いて約15分。
人気の少ない道があるから、言うならその場所と決めていた。
大丈夫。
大丈夫。
正直それまでの間、自分が話してる会話の内容なんて全く覚えていられなかった。
だんだんと近づく、心に決めている場所。
見えてきた。
今日も人通りはない。
「鈴ちゃんっ…」
「…っ」
改めて名前を呼ばれ、彼女は小さい顔を上げる。
笑顔はない。
「鈴ちゃんに…改めて話たい事があるっす」
その言葉に足を止め、小さくはいと返事がされた。
「その…えっと…。鈴ちゃんには俺、いつも癒やされていて…その、花の知識や技術も凄いし、尊敬していて…」
なんとも辿々しい前振り。
でも彼女は口も挟まずに黙って聞いてくれている。
「……。え…と…これからもずっと…学校を卒業しても傍にいたい…というか……つまり…」
………
「き、君の事が好きです!俺と…付き合ってください!!」
精一杯。渾身の愛の告白。
鈴ちゃんの顔を見れなくて、俺は目を閉じて頭を下げた。
「……………。」
一時の沈黙。
鼓動が早すぎる…緊張が止まらない。
「日…晴くんっ…ごめんなさい………」
えっ…
その言葉に
足が…震える
鈴ちゃんの…声も震えている。
「僕も……日晴君の事…好きでしたっ…」
「えっ…じゃぁ…なんっ…」
「ごめんなさいっ……僕…」
涙ながらに彼女は…胸ポケットから生徒手帳を取り出した。
それを開いて見せられた瞬間。
目の前が真っ白になった。
『藤原 鈴夜』
「ふじわら……りん…『や』…」
この人は女性ではなく、男性だった。
頭の中で何かが崩壊。
君が、自分の事を『僕』と言っていた時点で気がつくべきだったのか…
思考回路がぐちゃぐちゃになり
自分の呼吸が止まった事だけはわかった。
「ずっと……黙っていて…ごめんなさいっ…。
いつか言わなきゃって…思ってました」
「…………」
「日晴君の気持ちも…ずっとわかっていました…
それならいっそ、早く伝えなきゃって…わかって…たのに…」
「………」
「この関係が終わってしまいそうで…今日の今日まで………それが出来ませんでしたっ…本当っ…に…ごめんなさい…」
鈴ちゃんの涙も俺には霞んで見える。
「だからっ…お付き合いは…出来ないからっ…
せめて、これからもお友…」
「ごめん」
「………ッ」
「少し…………時間をください…」
俺のその言葉に、彼の瞳孔が開いた事がわかった。
*
違う。
大好きな、太陽のような日晴君の顔じゃない。
僕の………せいだ。
日晴君はその場を逃げるように立ち去り、
僕はひとりで駅へ向かった。
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