……………




「ん…ぅ…」



うっすら目を開けると、見慣れない天井が映った。

私の部屋でもホテルの部屋でもない。

そうだ。私、バレルさんと…

床に落ちている自分の衣服、下着。

彼の服は私の服の下に落ちている。

私自身触らなくても服を着ていない事くらいわかるか。

あのまま…疲れて眠ってしまったんだ。

まだぼやけている視界。

目を擦り、そして何気なく隣を見ると

私と同じように天井を見上げているバレルさんの横顔があった。



「…起きたか?」

「ご、ごめんなさい。私、いつの間にか寝ちゃってて…」

「あんだけ好き勝手やったんだ。疲れるのも無理ねぇ」


珍しくフォローを入れてくれる彼になんとなく頬が熱くなった。


「バレルさん…?」

「…………。」


無言でこちらに瞳が向けられる。


「あ…いえっ…」

「何だ?」

「………。なんだか…夢を見ているようだったから。
今日の…その…貴方とした事が現実だったのか…信じられなくて」

「今の状態見りゃわかんだろ」

「それは…そうですけど…」




今見えているこの光景も、夢なのではないかと疑ってしまう。











愛してる…―――

俺の物って証だ――








バレルさんの言葉ひとつひとつが、頭から離れない。







「俺は…」

「…っ」


隣に横たわる彼は、天井に視線を戻して小さく口を開いた。



「俺は一時期。とんだ性悪女の部下に付いていた事があった。俺の全てが…黒い闇で覆われていたような時期だ」

「……っ…」

「リッキーを憎みこの世の全てを恨み、復讐の為だけに俺はその女と手を組んだ」



初めて…バレルさんが語り始めた自身の過去。

それに耳を塞ぐ事なんて当然出来ない。


「女の指示で俺はリッキーを潰す為に幾つもの罪を犯した。
それも全ては、奴をこの世界から引きずり下ろす為」

「リッキー君と…昔何があったんですか?」

「お前は知らなくていい。ただ俺が弱くて、悪人にハメられるような馬鹿だっただけだ」

「……。」


バレルさんはこちらを向く事なく話を進める。


「俺はその期間。女の性欲の為、体も好き勝手要求された。手を貸してやっているのだから当然だと、そのグルの女共の相手も散々させられてきた」

「……ッ…」


当時の状況を思い出しているのか、顔がいつも以上に青白い。

相当辛い過去だったのだろうか。


「仕方がないとは思っていたが、実際は地獄みてぇだった。
好きでもねぇ汚い女とヤらされ、常に我が儘な女共の要求に応えなければならない。
気色悪く、言いようのない苦痛に毎度堪えていた。

俺は…どれだけ人と体を重ねても孤独なままだった。

それ以降、俺は女に対しての欲もなくなり、むしろ関わりたくねぇくらいの生き物だと思ってしまっていた」


「……っ…」



「そう…だったんだがな」


バレルさんがやっと私の方を見る。

その間近で見える顔に目が逸らせず。



「お前は勝手に俺の精神の中に入り込んで俺を壊した。
お前といると俺は、自分自身が気色悪いと思うような欲望をかきたてて…目障りで仕方なかった。
お前といると、俺はどんどん頭がおかしくなりそうになる。

何度も突き放したのに、結局馬鹿みてぇに付きまといやがって…」


彼のオレンジ色の瞳。

最初はあんなにくすんで見えていたのに、今はこんなにも透き通って見える。


「そのうちお前からの電話がないと落ち着かなかったり、小さい事でムカついたり…もう自分がわからなくなりそうになっていた。

あの野郎も言っていた通り。お前は俺の中で気づかないうちに、最も大切な存在になっていた」


「バレルさん…」



黒いマニキュアの爪が付いた手で、傷つけないようゆっくりと頬を触ってくれる。



「だからこそ、こんな俺は近づいちゃいけねぇ事は…わかっていたのに…

キスをしてベッドに押し倒したら…もうそういう事は一切考えられなくなった。

女を『気色悪い』とさえ思っていた俺が…
もう過去も何もかもを忘れて、抱いて自分の物にしてしまいたいと思ってしまった」

「……。」

「…引いたか?」

「いえ。嬉しいです…」


バレルさんは笑うわけでもなく、ただそっと手を離して私の顔を見つめる。



本当に…嬉しかった。

貴方がここまで素直に話してくれて、私をこんなにも愛してくれた事が。


離された手が遠くに行ってしまう前に咄嗟に掴んだ。


「…ッ」

「ごめんなさい。今日はもう少し…こうさせてください」



涙が出そうで、ただ彼の手を強く握ると


もう片方の手が背中に回ってきて体を抱き寄せられた。



「…ッ…////」

「起きたらまた…お前の飯が食いたい」


ぽつりと出てきた普段のお腹を空かせたバレルさん。

やっといつもの彼に戻ったみたいで、思わず笑ってしまった。


「ふふ。わかりました」




私だって同じです。



何度も何度もくじけそうになっても…貴方の事だけは見捨てられなかった。



今思えば、貴方は最初から誰かに助けて欲しかったのかもしれませんね。



眉間にシワを寄せて、周りに冷たくして…



それでも必死にもがいて、助けて欲しいと叫んでいたのかもしれません。



…あのファミレス店の前で。

初めて不良の人達に襲われた時、私を救ってくれたのが貴方で良かった。



私が貴方を好きになって良かった。



不器用なのに頑張って変わろうとしてくれて…とても嬉しかった。






今日は貴方の気が済むまでこうしていてください。





起きたらまたビックリするくらい、たくさんご飯を食べてくださいね。





fin


- 50 -

*PREV  NEXT#


ページ: