一通目
恋に落ちた。
初めて彼を見たとき、一瞬で。
恋に、落ちた。
とりとめのない、いつもの夕方のことだった。
その日は残業も呑み会もなく、少し浮き足立った気分で帰り道を歩いていた。
あの甘味所の角を曲がって、公園の脇を通ればもう家はすぐそこだった。
家に帰ったら、まずご飯を作って、あ、久しぶりに一人酒とかしてみようかな。
頭の中はすでに家にたどり着いた後のことでいっぱいになっていた、その時。
はらり、と私の足元に赤い何かが落ちてきた。
・・・なんだろ、これ。
放っておくのもしのびなく、なんとなしにその赤いものを手に取った。
その赤い物には、黒いゴムが付いていて、バッチリと開いた二つの目がプリントされていた。
なんだか不思議な柄だけれど、それはあきらかにアイマスクであった。
どこから落ちてきたんだろう。
そう思ってきょろきょろと辺りを見渡してみると、甘味所の椅子にだらりと寝そべる1人の少年がいた。
私は思わず息を飲んだ。
時がとまった気がした。
周りの音も一気にシャットアウトされ、しんとした空間が私の周りに広がる。
しかし、心臓だけがなぜかドクドクと異常なほど跳ね上がる。
他人の寝顔をじっとみるなんて、失礼だとしても、私は視線をそらすことが出来なかった。
一瞬で、私はその少年に目を奪われたのだ。
動くことさえできないまま、そこに立ち尽くしていると、その少年がうっすらと目を開いた。
眉をしかめたまま開かれた、赤い瞳はすぐに私を捕らえ、そのまま視線を私の手元、つまりアイマスクに移した。
「・・・おい、てめぇ。何勝手に人のアイマスクとってんでィ。しょっぴかれてぇのか。」
「・・・・・・」
「おい、無視すんじゃねぇよ。」
頭を精一杯動かしていたつもりだが、どうやらなにも発さなかったことが無視と捉えられたらしい。
「え、あ、えっ・・・と、アイマスク、おちてました、よ?」
物凄い動揺っぷりに、少年は信用ならないとでも言いたそうに私をじっと見ている。
「あ、で、誰のものかなって思ってて、そしたら君がいて、どうしようかなって思ってたところなんです、はい・・・。」
「はぁ、まぁ信じてやりやす。その代わりだんご3つおごりなせェ。」
「・・・は?」
「俺の貴重な寝顔見たんでィ。そんくらいはしてもらわねぇとな。」
「まぁ確かに綺麗な寝顔だったけれども!だったけれども、私は不可効力でしょ!なんでだんごを、しかも3つも!」
「ったく、細けぇ女。こんなんちょろっと出す女じゃねぇといい男はつかまりやせんぜ。」
「むやみやたら女に奢らせる男の、どこがいい男なわけ?それともなんですか、私は財布程度の女に見えるってことですか?」
「もちろん」
「あ、普通に傷ついたわ、今。」
見ず知らずの少年とこんなところで言い合いなんておかしな話だし、恥ずかしいことこの上ないのだが、どうしてか私はとても楽しいと思ったのだ。
「へぇ、ならだんごおごりな、」
「総悟ォォォォォ!」
突然大きな怒鳴り声が聞こえたかと思うと、黒い服を着た男が物凄い勢いでこちらへ走ってくるのが見えた。
少年は眉をしかめて男を見ると、小さく舌打ちをした。
そしてどこからともなく黒光りするバズーカを取り出して躊躇なく男に放った。
「あばよ、副長。」
ドカン!と大きな音が響くと、すでにそこに少年の姿はなかった。
私がその人達をかの有名な真選組の沖田総悟と土方十四郎だと知ったのは、その日の夜のニュースであった。
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