「は?」
アジトのバーで自分の横に座って静かにカクテルを飲む女ー視川 すみが溢した言葉に、思わずそう聞き返してしまった。
「だからね、死柄木くんは好きなように生きればいいと思うんだ。」
「、、充分、生きてるけど。」
昔から突拍子もないことばかり言う人だった。良くも悪くも常識に囚われないというか。まあ、そんな彼女をなんだかんだで横に座らせている時点で嫌いなわけではないのだろうけど。
掴めない彼女の考え方は、死柄木の思いもよらない所から次々と爆弾を落としていく。
当の本人は落とすだけ落として、何食わぬ顔で笑っているのだから勘弁して欲しい。
「死柄木くんはさ、この世の中をぶっ壊すって言うけど、別に生きにくい世界をわざわざ壊さなくても、死柄木くんが生きやすい世界に行けばいいんじゃないかな。」
「そんなところがないから、壊すんだろ。今更なこと、言うなよ。」
「死柄木くん、この国の人は君を知ってる人ばかりで口を揃えて犯罪者だと罵るけれど、君を知らない国では君はその国の住人と変わらないただの人なんだよ。」
「、、、、。」
頭が痛い。自分を理解してくれる人間がいないから他所へ行けって?気に入らないなら壊せばいい。先生だって、いいよって言ってくれた。
俺の好きにしていいって、言ってくれた。
だから、この国をぶっ壊すことにした。他所へ行って普通の人になって何になる?
俺はこの国でオールマイトを殺すまで、死柄木弔として、敵連合のトップとして、この国とヒーローをぶっ壊すだけだ。
視川の言ってることなんて、負け犬の考え方だ。
俺は、違う。違うんだよ。
「そういうのはさ、力がない奴の生き方なんだよ。弱いから逃げて、逃げ込んだ先を居場所だと勘違いして、認められたと思っているだけだ。」
「気に入らない人や物、国をぶっ壊して、自分の好きなように生きれる国を作っても、また気に入らない奴が現れたら、ぶっ壊すの繰り返し。不毛だよ。」
「うるさい。黙れ。死ね。」
「そんなんじゃ、誰も死柄木くんと一緒に居てくれないね。」
「必要ないね。俺は、俺がやりたいようにやるだけだ。使える駒は欲しいけど、視川みたいな奴はいらないよ。」
「ひどいなあ、」
視川はバーのカウンターに突っ伏してしまったけれど声で笑ってるのが分かる。
食えない奴だ。
「もし、もしね、」
「まだ何か言うのかよ、」
「いいから、聞いて。」
「、、、、。」
「もし、この世界に存在する国を全部ぶっ壊しても、きっと君が気に入らない奴等は消えないだろうから「ふざけるな。全員ぶっ壊すに決まってるだろ。「だから、聞いてってば。」
「視川の話はイライラする、、!聞いてると気分が悪くなるんだ!」
「だから、もし、本当に君が完璧な理想の国を作りたいなら、家(うち)においでよ。」
「は?」
「住人は私だけ。静かでいいでしょう?」
「一番うるさい奴が何言ってんだよ。」
「ははは、本当にひどいなあ、」
ねえ、うちにおいでよ、死柄木くん。
「、、、、気が向いたらな。」
「うん。」
理想の国なんてどこにもない。壊しても奪っても、思い通りにはならない。
なら、うちの王様になりなよ。
日当たりいいよ。ごはんは作るよ。
ふかふかの布団もあるし、文句も言わないよ。
ねえ、私たちだけの理想の国を作ろうよ。
一緒にいようよ。ずっと、ずっと。
外の事なんてその内忘れるよ。
「死柄木くん、ねえ、」
彼が望む返事をくれるまで、あと、
ユートピア KEI
汚れない幻 僕らだけの国
それはユートピア
ありえるはずないや。